近年、デジタル広告は急速に市場を拡大し、企業のマーケティング戦略において欠かせない存在となっています。アドテクノロジー(広告技術)の進歩により、ユーザーの興味関心に応じた効率的な広告配信が可能となる一方、その裏側では予期せぬリスクが増大しています。
たとえば、2018年の「漫画村」事件や、近年SNSで増加している「なりすまし広告」詐欺といった事例は、デジタル広告の複雑な仕組みと透明性の欠如が引き起こす課題を浮き彫りにしました。
こうした背景を受け、総務省は2025年6月9日、「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」(以下、ガイダンス)を公表しました。このガイダンスはデジタル広告の適切かつ効果的な配信や、業界全体の健全化に向けた指摘がされています。
総務省ガイダンスが示すデジタル広告のリスクとは?
デジタル広告はテレビ、新聞などの「マス広告」と違い、複雑な配信網を経由し、広告主が意識しないうちに不適切なサイトや違法コンテンツに広告が表示されるリスクが存在します。このような問題を放置すると、ブランド価値や企業イメージが毀損されるだけでなく、社会全体への悪影響を引き起こす可能性があります。
本記事ではガイダンスが示す、不適切なコンテンツへの広告配信が引き起こすリスクと、その実践的な解決策までをまとめています。
またガイダンスの重要ポイントやそのようなリスクへの具体的な対策方法を分かりやすくまとめた資料を公開しています。こちらも合わせてぜひご確認ください。
総務省ガイダンスのポイント
ガイダンスではデジタル広告の具体的なリスクや、その対応策について指摘されています。ここではガイダンスのポイントを大きく3点解説します。
1.デジタル社会の不健全なエコシステムに加担するリスク
従来よりデジタル広告においては「ブランド毀損」や「アドフラウド」などのリスクが指摘されていました。
- ブランド毀損リスク:アダルト、誹謗中傷などの要素が含まれるコンテンツに意図せず配信されることで、広告主のブランドイメージが損なわれてしまうリスク
- アドフラウド:自動化プログラム(bot)やスパムコンテンツなどにより広告費を詐取されてしまうリスク
それに加えガイダンスでは、「フェイクニュース」などの偽・誤情報や、海賊版サイトなどの違法アップロードコンテンツなどに広告が掲載されてしまう「デジタル社会の不健全なエコシステムに加担するリスク」が指摘されています。
そのような不正コンテンツは広告収入を得ることを目的としており、広告掲載は不正コンテンツの流通・拡散を助長することにつながります。冒頭取り上げた「漫画村事件」はその最たる例であり、漫画村の管理者が莫大な広告費を得ていたこと、それらの広告の中に日本の大企業が含まれていたことも大きな注目を集めました。
不正コンテンツへの広告掲載は企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility:CSR)の観点からも配慮が必要であり、このようなコンテンツに広告が配信された場合、一般ユーザーからは不正行為を容認する企業であるとみなされる恐れがあります。
2.経営層・管理層の関与の必要性
ガイダンスではデジタル広告を適正に運用するために、経営層・管理層自らが関与して判断する必要性が強調されています。
広告運用を担う現場担当者は、広告のクリック率やコンバージョン率といった成果指標を重視することが求められています。そのような中でデジタル広告リスクへの対応を行うことで一時的にでも指標が悪化することを恐れ対策が実行されないという点が、ガイダンスの中で指摘されています。
そこで経営層・管理層が広告配信の目的に応じて各指標を正しく理解した上で、デジタル広告のリスク対策のためのルール整備、具体的な取組を主導することが求められています。
3.広告主の社会的責任(CSR)および情報開示
デジタル広告のリスクはアドフラウドによる広告費の流出やブランド毀損など広告主自身のリスクにとどまらず、社会全体に影響を与えます。
例えば1.で指摘されている違法アップロードコンテンツへの広告費流出は、本来権利者に支払われるべき報酬が支払われなくなり、信頼できる媒体やコンテンツが維持できなくなることにつながります。
このような広告主の社会的責任(CSR)を鑑み、ガイダンスでは広告主がデジタル広告リスクへの対策状況を情報開示することが指摘されています。
具体的な開示方法として、ガイダンスでは下記の3点が挙げられています。
- 有価証券報告書
- 年次報告書(アニュアルレポート)
- 企業ホームページ
このガイダンスをきっかけに、一般ユーザーだけでなく株主や取引先などのステークホルダーからも、デジタル広告リスクへの対策が求められることが予想されます。
そこで資料では各開示方法における情報開示の方法を示していますので、どのように対応すべきかわからないという方はぜひ参考にしてください。
アドベリフィケーションへの取り組み
こうしたリスクに対処する手法として、ガイダンスではアドベリフィケーション対策が提唱されています。アドベリフィケーション(ad(広告) + verification(検証))とは、広告配信が意図した環境で行われているかを検証する仕組みで、ブランド毀損や広告詐欺を効果的に防ぐ方法として期待されています。
アドベリフィケーションの具体的対策
ガイダンスでは具体的に下記3種類の取り組みが語られています。
-
契約段階での取り組み
パートナー企業を選定する際、広告運用時にアドベリフィケーション対策の実施を明確に求める。 -
品質認証事業者との取引
JICDAQ(一般社団法人デジタル広告品質認証機構)などの第三者から広告配信の品質の認証を受けた事業者を活用し、透明性と品質を確保する。 -
技術的対策の導入
アドベリフィケーションツールの導入を指します。以下具体例です。
・ブロックリスト型ツール
不適切なコンテンツをリスト化し、プラットフォーム上で配信対象から除外。
・アドフラウド特化型ツール
ボットや不正クリックを検知・対策することで、被害を減少させます。
これらの対策は、自社の広告配信状況に合わせ、組み合わせて取り組む必要があります。例えば複数の広告代理店と取引がある場合、全ての事業者が品質認証事業者であるとは限りません。そこで、取引の前提としてアドベリフィケーションツールの利用を定めたり、自社でアドベリフィケーションツールを導入し、広告代理店に利用してもらうといった方法も考えられます。
アドベリフィケーションツール「HYTRA」シリーズのご紹介
上記のように、アドベリフィケーションの取り組みには適切なツールを利用することが効果的です。ここでは弊社のアドベリフィケーションツール「HYTRA」シリーズをご紹介いたします。
- HYTRA DASHBOARD
Web(ディスプレイ)広告、アプリ広告、YouTube広告におけるブランド毀損とアドフラウドを防ぐ、ブロックリスト型ツールです。
独自の日本語解析技術と目視のダブルチェックにより、高品質なリストをご提供します。 - HYTRA HORNET
Web広告やSNS広告など、様々なプラットフォームでの対策が可能なアドフラウド特化型ツールです。高精度な検知技術により、広告費の流出を防ぎます。
ここまで見てきたように、アドベリフィケーションの取り組みは、自社の経営にとっても、社会的にも重要な要素です。特にガイダンスによってこの取り組みへの注目が増すことが容易に想定されます。
「何か問題が起こってから」「ステークホルダーから指摘されてから」ではなく、このタイミングで対策をご検討されてはいかがでしょうか。