結局、漫画村の何が問題だったのか?海賊版サイトの問題点と対処方法について

恩田基輝
2021-09-16
目次

 「漫画村」事件をきっかけにして社会的関心が高まった違法海賊版サイトの仕組みをご存じでしょうか?海賊版サイトをはじめとしたWeb広告に潜むリスクには、どのようなものがあるのでしょうか?漫画村と同様の海賊版サイトは、今も数多く存在します。海賊版サイトの主な収入源であるアドフラウド(広告詐欺)対策や、法令・公序良俗に反するサイトへの広告表示を回避するブランドセーフティ対策は、Web広告を運用する際の重要課題です。

 本記事では、漫画村の仕組みや問題点、海賊版サイト対策をはじめとした安全な広告運用のための施策について解説します。

結局、漫画村って何が悪かったの?

 まずはこちらの図をご確認ください。

違法サイトの収益図

 「漫画村」は、違法にコピーした漫画などのコンテンツを掲載した海賊版サイトです。
 漫画村は2016年1月に開設されて、2018年4月には閉鎖されました。サイトの閉鎖後に元運営者と実行に関わった2名が逮捕・起訴され、実行役の2名に対しては2019年に執行猶予付きの有罪判決が、元運営者には2021年に懲役3年、罰金1,000万円、追徴金約6,200万円の判決が確定しています。漫画村事件以降も、同様の仕組みで運営される海賊版サイトは、数多く存在し続けています。

 漫画村を含む海賊版サイトは、著作権を侵害して本来有料のコンテンツ(漫画、映画、動画、お音楽など)を無料で掲載し、PVを稼いでいます。コンテンツの閲覧には広告の表示が付き纏い、広告費が発生しています。また、この段階でいくつかのリーチサイト(海賊版サイトへのリンクサイト)を経由することが多く、そこでも広告を経由することが必須になっている場合もあります。

 また、あらゆるアドフラウドも検知されています。例えば、実際のユーザーではないBotなどによって広告が表示、クリックさせられていたり、ユーザーに視認することができない大きさや場所に広告が表示されられていることもあります。つまり、実際のユーザーが見ているよりも多く、広告のインプレッションがカウントされており、その分広告費が海賊版サイトの収益になっているのです。

 このようなサイトにたいして広告配信事業者も当然対応しています。海賊版サイトと疑われるドメインに対しては広告の配信を停止したり、アドフラウドと思しきトラフィックに関しては広告の入札を行わない、もしくは広告費が発生しないなど、様々な手段が取られています。ただ、海賊版サイト側も、ドメインを詐称し広告のリクエストを行い、広告配信事業者を騙しすなど、新たな詐欺行為を実施しています。アドフラウドの対策と海賊版サイト側の詐欺手法がいたちごっこになっているのが実情です。

海賊版サイトの特徴

海賊版サイトの特徴 違法な海賊版サイトの運営方法には、以下の3つの特徴があります。

  1. 有料漫画を無料で掲載してサイトを運営
  2. ユーザーの閲覧ページに広告を表示して収益を得る
  3. 広告不正による広告収入の水増し

 各項目に沿って、漫画村のような海賊版サイトが収益を得る仕組みを説明します。

1. 有料漫画を無料で掲載してサイトを運営

 漫画村のような海賊版サイトは、著作権を侵害して、漫画や映画、動画、音楽といった本来有料のコンテンツを無料でサイト上に掲載し、ページへのアクセス数を稼いでいます。

2. ユーザーの閲覧ページに広告を表示して収益を得る

 違法コンテンツを掲載した漫画村のページには広告が表示され、アクセス数に応じて広告費が発生します。また、漫画村にアクセスする際には、リーチサイトと呼ばれるリンクサイトを複数経由する場合があり、リーチサイト上にも広告が表示されます。

3. 広告不正による広告収入の水増し

 海賊版サイトでは、さまざまな種類のアドフラウド(広告詐欺)が検知されています。海賊版サイトに見られるアドフラウドの具体例には、主に以下のものがあります。

・bot(自動化プログラム)による広告表示数・クリック数の不正水増し
・ユーザーが視認できないサイズや掲載場所での広告表示

 アドフラウドによって不正に得た広告収入は、海賊版サイトの主な収入源になっています。

漫画村の4つの問題点

 海賊版サイトである漫画村には、著作権者や広告主、広告配信会社などに損害を与える4つの重大な問題点があります。

  1. 著作権を侵害するコンテンツの掲載
  2. 違法コンテンツによって広告収入を得ている
  3. 広告を出稿した企業やブランドのイメージ毀損
  4. アドフラウドによる不正な広告収入を得ている

 それぞれの問題点について、以下に解説します。

漫画村の4つの問題点

1. 著作権を侵害するコンテンツの掲載

 漫画村のような海賊版サイトは、著作権を侵害して、漫画や映画、動画、音楽といった本来有料で提供されるコンテンツを無料でサイト上に掲載し、ページへのアクセス数を稼いでいます。

 海賊版サイトは、意図的に著作権侵害を行っている悪質なサイトです。当然、法的措置によってサイト運営を停止させることが可能です。実際に、漫画村に類似した海賊版サイト「漫画BANK」への刑事告訴を目的として、集英社やKADOKAWAなどの出版社4社がアメリカの裁判所に情報開示の申し立てを行い、認められました。その結果、漫画BANKが利用したサービス会社から運営者情報が開示され、中国で漫画BANKを運営していた男性に厳しい行政処罰が課せられています。

 ただし、基本的に国単位で策定されている現状の法制度では、Web上での著作権侵害のようなグローバルな法律違反に対して、全て解決できるわけではありません。今後、諸外国との協力関係の強化が望まれます

海賊版サイトは今も新たに作られ続けています。海賊版サイト一つひとつに対して法的手続きを行うには、相応のコストと時間がかかってしまいます。こうした課題を解消するためには、インターネット関連の法整備が必要なのです。

2. 違法コンテンツによって広告収入を得ている

 違法コンテンツを掲載した漫画村のページ上には、広告が表示されており、アクセス数に応じて広告費が発生します。また、漫画村にアクセスする際に経由するリンクサイトにも、広告が表示されます。
 Web広告の取引市場では、ユーザーがWebメディアにアクセスした際に、広告枠の入札競争が行われます。事前に広告主や代理店が設定した購買条件に最も適したメディアに広告が表示され、ユーザーに閲覧されます。この取引は、基本的に全て自動的に処理されます。

 こうしたWeb広告取引システムの隙間に、海賊版サイトが存在します。漫画村事件では、大手のプラットフォームから著名な広告主や行政機関の広告が配信されており、問題となりました。海賊版サイトに広告が配信されてしまう背景には、膨大に取引されるWeb広告の表示場所を人の目によって管理することが困難になっている状況があります。

3. 広告を出稿した企業やブランドのイメージ毀損

 漫画村のような海賊版サイトに広告が表示されることで、広告主のブランドの価値やイメージが毀損されてしまうリスクが生じます。海賊版サイトと同様に、ブランド毀損が生じる事例として、フェイクニュースの問題があります。

 事実と異なるフェイクニュースを掲載するページに広告が表示されてしまうと、広告主にブランド毀損が生じるだけでなく、間違った情報を流布する悪質な事業者が広告収入を得ることにもなります。EU(欧州連合)では、このような問題に対して法的措置を含めた対策が検討・実施されています。具体的には、広告配信事業者に対して、ファクトチェックのアルゴリズム追加を求めており、対策が進められています。

4. アドフラウドによる不正な広告収入を得ている

 海賊版サイトは、不正表示や不正クリックといったアドフラウドを主な収入源としています。アドフラウドとは、デジタル広告における不正行為や詐欺的な行為のことです。bot(自動化プログラム)による広告表示回数やクリック数の不当な水増しが代表例とされています。

 アドフラウド対策は、インターネット広告業界全体の重要課題です。広告配信会社やセキュリティベンダー各社が、アドフラウドを検知・対処するアドベリフィケーション施策を実施しています。アドフラウドのリスクが高い海賊版サイトへの広告配信を防ぐためには、各ステークホルダーが適切な措置を講じる必要があります。

アドフラウドとは?対策方法からおすすめ対策ツール5選を徹底比較

3つの海賊版サイト対策

3つの海賊版サイト対策

 漫画村事件を契機にして、広告事業者や検索エンジン運営会社などでは、海賊版サイトの撲滅を目的とした対策が実施されるようになりました。現在、実施されている代表的な海賊版サイト対策には、以下の3つがあります。

  1. 海賊版サイト利用を防止する啓発キャンペーン
  2. 広告事業者間での海賊版サイトのリスト共有
  3. 検索エンジンから海賊版サイトへの流入抑止

 それぞれの対策の概要を、以下に紹介します。

1. 海賊版サイト利用を防止する啓発キャンペーン

 出版社や電子書籍流通事業者、IT事業者、通信事業者、著者権者団体などで構成される一般社団法人ABJは、海賊版ではなく正規版コンテンツの利用を促す「STOP!海賊版キャンペーン」を展開しています。このキャンペーンでは、以下のような活動が実践されています。

  • 検索エンジンで海賊版に関するキーワードが入力された際に注意・啓発するバナーを表示
  • 海賊版サイトの利用防止を目的とした啓発マンガの制作

 また、インターネットの悪用抑止に取り組む一般社団法人セーファーインターネット協会では、海賊版サイトへのアクセス抑制施策を検討・実施する海賊版対策実務者意見交換会を開催し、海賊版サイト撲滅に向けた活動を行っています。

2. 広告事業者間での海賊版サイトのリスト共有

 Web広告事業者やセキュリティベンダー各社は、海賊版サイトのリストを共有する体制を整えています。共有されたリストを使って、海賊版サイトへのアクセス抑止や、海賊版サイトへのリンク貼付の警告といった施策が実施されています。

3. 検索エンジンから海賊版サイトへの流入抑止

 GoogleやYahoo! JAPANといった主要検索エンジンでは、検索結果ページから海賊版サイトへの流入を抑止する対策を実施しています。Googleが行っている主な海賊版サイトへの流入抑止策には、以下のようなものがあります。

  • DMCA(米国著作権法制度)に基づくページ非表示措置
  • 著作権者から通知を受けたページを検索結果から削除
  • 有効な削除通知を大量に受け取ったサイトの検索結果表示を低下させる降格シグナルの活用
  • 裁判所からの要請に自主的に従って裁判所の所在する法域で当該サイトを検索結果から削除
  • 海賊版サイト対策に有効なツール開発やプロセス改善への取り組み

 Yahoo! JAPANでは、有識者による「検索結果とプライバシーに関する有識者会議」を設置しており、会議の報告書に基づいた基準によって、検索結果を非表示にする施策を講じています。

では、誰が悪いのか?

 漫画村が大きく話題になった時は、そこに広告を配信していた広告配信事業者や、広告主に対して管理責任の追求があったと思います。最近では、海賊版サイト似たような事例に、フェイクニュースの問題が存在します。

フェイクニュース問題について詳しい解説はこちら!
フェイクニュース対策、見分け方や広告主にできることはなに?

GDIが日本の主要ニュースサイトの偽情報リスクアセスメント報告書を公開

 フェイクニュースを掲載しているサイトに対し広告が表示されてしまうと、それがそのまま収益になり、悪意を持った事業の継続につながってしまいます。EU(欧州連合)では、このような問題に対し、法的措置を含めた対策が検討、実行されています。その中では、広告配信事業者に対し、ファクトチェックのアルゴリズムの追加の要望が求められており、早急に対策が進んでいます。言い換えれば、EUでは、フェイクニュースに関する責任の多くが広告配信事業者(意識されているのはグローバルの大手IT企業だとしても)に課されている、ということだと思います。

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海賊版サイトによって生じるWeb広告の2つのリスク

 漫画村のような海賊版サイトによって生じる、Web広告の潜在的なリスクには、以下の2つがあります。

  1. 公序良俗に反するページへの広告表示によるブランド毀損
  2. botによる不正表示や不正クリックなどのアドフラウド

 これらのリスクの内容と主な対策について、具体的に説明します。

1. 公序良俗に反するページへの広告表示によるブランド毀損

 著作権・商標を侵害するコンテンツを掲載した海賊版サイトは、公序良俗に反する不正サイトです。海賊版サイトに広告が表示されることによって、広告主のブランドイメージや信頼性が損なわれてしまうブランド毀損のリスクが生じます。ブランド毀損のリスクを回避する主な対策としては、PMP(プライベートマーケットプレイス)やアドベリフィケーション対策ツールの利用が挙げられます。

 PMPは、限られた広告主と質の高いコンテンツを掲載する優良メディアによって構成されたアドネットワークです。信頼性の高いWebメディアだけに広告を配信できるため、ブランド毀損のリスクを低減できます。アドベリフィケーション対策ツールは、Web広告の検証・対策を実施するツールです。主要なアドベリフィケーション対策ツールには、ブランド毀損回避に役立つ、以下のような機能があります。

  • 配信推奨・非推奨リストの作成
  • 広告費用の発生前に配信先をフィルタリングするPre-bid
  • 広告配信後に問題のある配信先をブロックするPost-bid

ブランドセーフティとは?意味とブランド毀損を防ぐための対策を解説!

【サービス解説】ブランド毀損リスク可視化サービス-HYTRA ANALYTICS for Google Ads-

2. botによる不正表示や不正クリックなどのアドフラウド

 海賊版サイトの主な収入源となっているアドフラウドは、Web広告における不正行為や詐欺行為のことです。アドフラウドの代表例としては、bot(自動化プログラム)によるインプレッション(広告表示)数やクリック数などの不当な水増しが挙げられます。
 主なアドフラウド対策には、以下の方法があります。

  • 信頼できる優良メディアだけに広告を配信するPMPの利用
  • 解析用タグを用いたユーザー行動のモニタリング
  • アドフライドが疑われるサイトのブロックリスト作成
  • アドベリフィケーション対策ツールの導入

 アドフラウドによって、広告主は大きな損害を受けることになります。Web広告の配信開始時から適切な対策を実施する必要があります。

不正クリックはなぜ起こる?その原因とアドフラウド対策ができるツールを紹介

漫画村の仕組みや問題点を理解して、安全な広告運用を実現しましょう

 本記事では、漫画村のような海賊版サイトの仕組みや問題点、対策、海賊版サイトがWeb広告に与える影響などについて解説しました。
 海賊版サイトによって生じるWeb広告のリスクを回避するには、適切なアドベリフィケーション施策を実施することが重要です。安全なWeb広告運用に関する課題や疑問は、アドベリフィケーション事業を専門に行うMomentumにご相談ください。

 

Momentumでは、海賊版サイトを含めた広告配信から除外すべき
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参考記事

CODA「海賊版サイトに対する国際執行手続き強化に関する報告会」を開催
http://www.coda-cj.jp/news/detail.php?id=220

フェイクニュースの収益化を後押し、ネット広告業界に「責任を取れ」
https://news.yahoo.co.jp/byline/kazuhirotaira/20210528-00240175

 

 

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