現実世界に負の影響を与えるフェイクニュースと、自社の広告が同一ページで掲載されるリスクについてご存じでしょうか?人々を惑わせる嘘やデマなどの偽情報は、SNSが普及したことで拡散の規模が拡大し情報伝達スピードも速くなりました。フェイクニュースは、驚きが大きく人々の感情を強く煽る性質があり、確かな情報よりも速く・深く拡散される傾向があるのが特徴です。そのため、フェイクニュースの掲載は公序良俗に反するだけではなく、広告主の経営に悪影響を及ぼすケースがあります。
そこで本記事では、フェイクニュース対策とフェイクニュースの見分け方について解説します。
方法とは?
ヒントを得る
フェイクニュース対策は難しい?
世界的に見ると、プラットフォームサービス上でのフェイクニュース拡散が深刻化しています。しかしフェイクニュース対策は、現在のところ根本的な解決策がないことから対処が難しい問題です。
2020年(令和2年)2月に総務省が公表した「プラットフォームサービスに関する研究会 最終報告書」によると、次のような方針が示されました。
- プラットフォーム事業者など民間部門の自主的スキームを尊重し、その取り組みを注視していくことが適当
- 表現の自由の観点から、個別コンテンツの内容判断に関しては、政府の介入は極めて慎重であるべき
ただし民間部門の取り組みではフェイクニュース拡散防止などの効果が見られない場合には、プラットフォーム事業者に対して行政が関与する可能性も示唆しています。そこで政府は、引き続きフェイクニュースの流通状況について実態把握のための調査を続けていく方針です(令和4年8月公表「プラットフォームサービスに関する研究会 第二次とりまとめ」)。
広告業界とフェイクニュース対策
ここでは、広告視点から見るフェイクニュース対策について見ていきましょう。
フェイクニュース対策は、他のブランド毀損リスク対策と質が異なる点に注意が必要です。アダルトサイトや違法サイト、ヘイト系サイトなどの基本的なブランド毀損サイトの対策は、「サイトに掲載されているコンテンツの内容」が広告掲載可否の焦点となります。つまり、自然言語処理などで文脈解析などを行えば、広告掲載に適しているコンテンツか否かの判断が可能です。
一方、フェイクニュース対策は「サイトに掲載されているコンテンツの真偽」が問題になります。換言すると、「どのような内容が掲載されているか」ではなく「掲載されている内容が本当かどうか」が判断の軸となるわけです。
しかしフェイクニュースと疑わしい記事の判定自体が難しいことから、判定を自動化するファクトチェックツールの開発が急務といえるでしょう。なお機械的に100%の確率で「コンテンツの真偽」を判定するシステムは、2022年12月時点では実用化されていません。
また広告業界は、ネット広告の信頼性を引き上げるための施策に取り組むことが重要です。業界全体で何をフェイクニュースとして扱うのかを定め、その対処法についてガイドラインを策定する必要があるでしょう。
フェイクニュース対策はどうしたらいいの?フェイクニュースを掲載してしまうことが多いメディアとは
ファクトチェックの推進と普及
フェイクニュース対策は、有効な処方箋となるツールやシステムがないことから広告業界のみならず社会全体も取り組むべき問題です。下図のとおり、世界ではフェイクニュースに対して第三者がファクトチェック(事実検証)を実施する団体数が増えています。
出典:総務省(2021)|「ウィズコロナにおけるデジタル活用の実態と利用者意識の変化に関する調査研究」
このファクトチェックは、IFCN(International Fact-Checking Network)が定める国際原則に基づいて実施されるものです。日本におけるファクトチェック団体の活動は諸外国に比べてまだ少ないことから、今後強化する必要があるでしょう。
情報リテラシー向上がフェイクニュース対策に有効
さまざまな研究によると、フェイクニュース対策として情報リテラシーの向上が拡散抑制に効果があることがわかっています。情報リテラシーとは、情報の性質を適切に判断できる能力のことです。
出典:Innovation Nippon 2020|「フェイクニュースwithコロナ時代の情報環境と社会的対処」
上図は、フェイクニュースの真偽判定において情報リテラシーが高いほうがフェイクニュースを判別する力があることを示したものです。一人ひとりが情報リテラシーを鍛えるためにも、できる限り情報源を確かめる習慣づけが重要だといえるでしょう。
フェイクニュースの見分け方5つ
フェイクニュースは2016年ごろより注目されている言葉で、研究者ごとにさまざまな定義がなされています。広告収入などを目的としたもの、対象となる著名人や企業の信用失墜を目的としたものや、社会の混乱を目的としたものなどさまざまです。
不確かな情報を拡散すると、大きな社会的な混乱を招くかもしれません。実際に2016年4月に熊本地震が発生した直後に、動物園からライオンが逃走中との偽情報と画像がTwitterで拡散されました。その後、投稿主は偽計業務妨害の疑いで逮捕されています。
しかし日本での実態調査では、すべての年代の回答においてフェイクニュースを見分ける「自信がない」が「自信がある」を上回りました。では混乱を大きくしないためにも、フェイクニュースを見極めるにはどうすればよいのでしょうか?
ここでは、騙されないためのフェイクニュースの見分け方5つを次のとおりご紹介します。
- 情報の発信元を探す
- 一次情報を確認する
- 情報が発信された時期を確認する
- 他のメディアが発信する情報と比べてみる
- 情報発信側の目的やバイアスを考慮する
自分も騙されるかもしれないという認識のもと、情報が信頼できるかどうかを一人ひとりが確認する必要があります。では、それぞれについて見ていきましょう。
1. 情報の発信元を探す
センセーショナルで目を引く記事タイトルや投稿を見つけたら、どの媒体あるいは誰が発信しているのか確認することが大切です。情報の発信元が明記されてあっても、信頼できる媒体・著者なのかどうか、客観的に考えましょう。
2. 一次情報を確認する
一次情報とは、わかりやすくいえば「自分で収集したオリジナル情報」のことで、二次情報とは「他の誰かが収集した情報」です。興味深い情報が引用や伝聞によるものだった場合は、オリジナルの一次情報を探して確認する習慣づけをしましょう。
引用や伝聞によるものであれば、誤った解釈をもとにオリジナルとは全く異なる性質の情報として発信されているかもしれません。
3. 情報が発信された時期を確認する
情報の鮮度をチェックすることも大切です。そこで投稿時期についても、忘れずにチェックしてみてください。最新情報ではないのであれば、そのトピックについて更新情報があるかどうか確認しましょう。
投稿時期が古ければ、その当時に問題視されていたことがすでに解決しているかもしれません。またファクトチェックグループによって、その当時の投稿内容が偽情報だと証明されている可能性も考えられます。
4. 他のメディアが発信する情報と比べてみる
衝動的に情報を拡散してしまう前に他の情報にあたると、惑わされるリスクを軽減できます。例えばセンセーショナルなニュースがネット情報であれば、新聞、雑誌、テレビなど他のメディアの情報と比べてどうか確認してみましょう。
SNSユーザーは、自分と意見が同じユーザーをメインにフォローする傾向にあります。そこで幅広い情報源に触れるためにも、自分とは意見が異なるユーザーや政府・自治体からの発信にも注目することが大切です。
5.情報発信側の目的やバイアスを考慮する
誤った情報を、発信者が意図的に流している可能性はないでしょうか?Twitterなどソーシャルメディアで拡散されている情報については、投稿者のプロフィール欄などを確認して発信の目的を考えます。
お金や対象の信用失墜などの目的を達成するために、故意に情報が誇張されたりねじ曲げられたりしていないかチェックしてみましょう。また発信者が、先入観や決まりきったイメージで情報を解釈していないかどうかもチェックすべきポイントです。
「思い込み」を生み出す認知バイアスは、今まで培われた固定観念や不安・懸念から発生する可能性があります。認知バイアスは簡単には取り除けないことも知った上で、情報にあたりましょう。
フェイクニュースが真実よりも拡散される4つの理由
学術誌Scienceで発表された論文によると「偽情報のほうが、真実よりはるかに遠く、深く、広く、速く拡散する」ことがわかりました。このようにフェイクニュースが真実よりも拡散範囲が広く拡散スピードが早い理由として、次の4つが考えられます。
- 目新しくセンセーショナルな内容が拡散の原動力
- 加工された画像などが根拠として示されている
- SNS上では好き・安心よりも怒りが拡散しやすい
- 友人や家族からの情報にはバイアスが発生する
では、それぞれについて見ていきましょう。
1. 目新しくセンセーショナルな内容が拡散の原動力
TwitterなどのSNSを通じて誰でも情報を発信できるようになったことから、目新しくて衝撃的な内容に飛びつき拡散するSNSユーザーが後を絶ちません。フェイクニュースには偽情報や誤情報が100%含まれるのではなく、真実味も巧妙に加味されています。
そのため確かな情報のように見えることから、SNSユーザーは正しい情報だと思い込んでしまうわけです。さらに目新しくセンセーショナルな情報に感情が煽られるほど、SNSユーザーはまるで使命を感じているかのようにフェイクニュースを広めてしまいます。
2. 加工された画像などが根拠として示されている
新聞記事や画像、動画などが「根拠」として示されているため、フェイクニュースにはよりいっそう真実味が加味されています。一呼吸つき落ち着いて見てみると、根拠といえるほどの関連性がないことがわかるでしょう。
しかし巧妙にコラージュされた画像や動画が使用されているフェイクニュースもあります。そのため、社会に衝撃や恐怖を与えたいSNSユーザーが拡散に加担してしまうというわけです。衝撃的な画像や動画を見つけたら、心理的な距離をおくように努めるなど、前のめりに拡散しないようにしましょう。
3. SNS上では好き・安心よりも怒りが拡散しやすい
さまざまな研究によると、好き・安心よりも「怒り」を煽るわかりやすい内容だと情報が拡散しやすいことがわかっています。フェイクニュースの多くは、怒りを煽る要素が入っているので拡散しやすいことに注意が必要です。怒りをぶつける攻撃対象を見つけたSNSユーザーは、正義感や義務感から名指しで非難を繰り広げてる傾向があります。怒りを煽る単純なストーリーをもつ情報ほど「フェイクニュースなのでは?」と一呼吸つくようにしましょう。
「煽りすぎかも?」と感じた時は、拡散しないよう心がけることで加害者になることは避けられます。フェイクニュースは社会を分断するためにわざと流布される可能性もあるので、「怒り」を増幅させる拡散に加担しないことが大切です。
4. 友人や家族からの情報にはバイアスが発生する
人はよく話す友人や家族から得た情報を信じやすい傾向にあることをご存じでしょうか?コミュニケーションの研究においては、情報発信者の専門性よりも情報発信者との会話の頻度が情報の信頼性に影響することがわかっています。
つまりSNSユーザーは、自分がフォローしている人が拡散する情報を信用する傾向にあるのです。また身近な人との雑談のために、目新しいフェイクニュースが選ばれています。
下図の「見出し一覧から見出しをクリックする基準」とフェイクニュース拡散経験の分析結果を見ていきましょう。拡散経験ありとの回答割合が高くなったのは「身近な人との雑談に役立ちそうかどうか(26.8%)」でした。
出典:総務省|「日本におけるフェイクニュースの実態等に関する調査研究」
この結果から、友人や家族との雑談がフェイクニュースを拡散しているかもしれない、という認識も必要だといえるでしょう。
フェイクニュースを掲載してしまうことが多いメディアとは?
総務省の調査によると、新型コロナに関して「フェイクニュース」と思われる情報にユーザーが触れた主なメディアは次のとおりでした。
・Twitter57%
・ブログやまとめサイト36.5%
出典:総務省|「新型コロナウイルス感染症に関する情報流通調査 報告書」
ブログや、SNSや匿名掲示板系のコンテンツをまとめたサイトがフェイクニュースの発信源となっている場合が多いようです。このようなサイトをピックアップし、広告配信対象サイトから除外することも検討してみましょう。
フェイクニュース対策コストは約260億円
日本でも事業を展開しているグローバルのアドベリフィケーションベンダーのダブルベリファイが、2019年に偽情報サイトへの広告掲載の対処費用としてブランド(広告主)は2億3500万米ドル(約258億円)を費やした、という調査結果を明らかにしました。
一般的には、「フェイクニュース」は世間的に大きな出来事やニュースが起きた際に急増するケースが多いと言われています。新型コロナウイルス関連ニュースは、ファクトチェック推進の契機となるほど偽情報であふれかえりました。そのためフェイクニュースは2019年よりも増加していると考えられることから、より膨大な対策費がかかっているものと想定されます。
広告主ができるフェイクニュース対策は?
フェイクニュースと思われる面に広告が掲載されるのを防ぐために、広告主が抜本的な解決策を講じることは難しい状況です。フェイクニュースの選別をAIに任せるにしても、まずは人間が判別したデータをもとにAIに学習させる必要があります。
この作業がフェイクニュースの大量化・高度化に追いつかないことが、フェイクニュース対策の大きな課題です。そのため実効的なフェイクニュース対策を、プラットフォーム事業者もなかなか適用できないというわけです。
広告業界はフェイクニュース問題への対応しなければならない
欧州メディア観測所は2022年の改訂した行動指針の中で、「フェイクニュースを拡散するサイトやアカウントのディスマネタイズ(非収益化)」が掲げられています。行動指針の根拠になっているのは「DSA」と呼ばれる「EU・デジタルサービス法」です。この仕組みを日本にそのまま持ってくることは難しいですが、とはいえ海外の専攻事例としては大いに参考になります。
何より、「ディスマネタイズ(非収益化)」は「インターネット広告」の問題です。詳しくはこちらのイベントレポートをご覧ください。インターネット広告とフェイクニュースの関わりから、我々はどうしたら良いのか、というディスカッションをしています。Momentum株式会社は今後もフェイクニュース問題に取り組んでまいります。