GDIが日本の主要ニュースサイトの偽情報リスクアセスメント報告書を公開

恩田基輝
2023-03-20
目次

 2023年2月23日、The Global Disinformation Index(以下、GDI)が、早稲田大学次世代ジャーナリズム・メディア研究所と共同で、偽情報のリスクアセスメント報告書を公開しました。この報告書は、GDIが設けた偽情報に関するリスク指標に従って、日本の主要なニュースサイトのコンテンツの品質と信頼性や、運営と編集の誠実性について総合的なリスク評価を行っています。
 本記事では、日本の評価結果を見つつ、他国との比較などを行いたいと思います。

 なお、報告書はこちらからダウンロードできます。
「偽情報のリスクアセスメント:日本のオンラインニュース市場(Disinformation Risk Assessment : The Online News Market in Japan)」
※別途出典を明記しない限り、以下の引用は全てここから

GDIとは

 まず、日本ではあまり聞き慣れないGDIについて説明します。報告書ではこう記されています。

Global Disinformation Indexは、中立性、独立性、透明性の3つの原則に基づいて運営されている非営利団体です。私たちのビジョンは、偽情報とその害のない世界です。私たちの使命は、企業と政府が偽情報を排除するように働きかけることです。私たちは、世界のニュースメディアサイトについて、偽情報のリスク評価を提供しています。

 今回のレポートでは、対象となるサイトの選定基準や、評価指標の定義などを定めているのが、GDIです。そして早稲田大学の研究所が、実際に対象サイトの評価作業を行ないました。

偽情報問題とアドベリフィケーション

 GDIの公式サイトを見ると、今回のような調査報告だけではなく、偽情報に関わるニュース記事なども掲載されています。GDIは、偽情報対策を行う目的として、偽情報によって引き起こされる暴力や分断を防ぐことだけではなく、「Brand Risks」を挙げています。

 「Brand Risks」は、偽情報サイトに広告が掲載されることによるブランドイメージの毀損リスクだけではなく、その広告費が資金源になってしまうことにより、新たな被害が生まれることを防ぐ、というリスクも含んでいます。「偽情報」というと、複雑な問題に感じますが、アドベリフィケーションの問題でもあるのです。

次世代ジャーナリズム・メディア研究所とは

何をしているところか?

 次に、次世代ジャーナリズム・メディア研究所とはなんでしょうか。

次世代ジャーナリズム・メディア研究所(INGJM)は、早稲田大学総合研究機構のプロジェク ト研究所の一つです。INGJMは、デジタル社会において市民から信頼される次世代ジャーナリズムのモデル構築に関する研究に取り組んでいます。 

 具体的には何をしているのでしょうか。

INGJMでは、現在、偽情報・誤情報対策の大きな柱の一つであるファクトチェック・システムの研究に取り組んでいます。また、次世代ジャーナリズム、特にエンゲージド・ジャーナリズムに取り組む実践者や研究者を講師として招き、その問題意識や実践の実績についてお話しいただきながら、事例の収集・体系化に努めています。

今回の報告書における役割

 今回の報告書において、次世代ジャーナリズム・メディア研究所は、GDIの評価指標を適用し、実際の評価作業と報告書の作成を担っています。GDIの評価指標については後述いたします。

偽情報リスクアセスメント報告書のサマリ

目的

 多くのニュースサイトはオンラインのトラフィックを増大させ、広告収入を得ることで運営しています。その中には、悪意のある偽情報を流通させることによりトラフィックを増大させる目的のサイトも存在します。そのような偽情報サイトは、結果的に、社会が共有する事実認識を混乱させたり、公衆衛生や政府の信頼を揺らがせたりする危険性があります。
 今回のような中立の評価を行う報告書を公開することにより、広告主やアドテック企業などのステークホルダーが、広告費の配分を見直すこと、直接的には、偽情報サイトに広告を出さなくなることが期待されています。

対象サイト

 今回報告書「偽情報のリスクアセスメント:日本のオンラインニュース市場」で、今回対象となったのは、下記の33サイトです。

gdi_japan-japanese-mmr-report-online_feb-23-08のコピー 選定理由は下記の通りです。 

オンラインニュース市場の概要

サンプルは、サイトのリーチ(各サイトのAlexaランキング、Facebookフォロワー、Twitterフォロワーを使用)、 妥当性、およびサイトの完全なデータを収集する能力に基づいて抽出された。

 日本の中で影響力のある代表的なニュースサイト、というところでしょうか。

アセスメントレポート

 評価結果は下記のようになりました。

gdi_japan-japanese-mmr-report-online_feb-23-09のコピー ※GDIのポリシーとして、リスクが最小と評価された5サイトを除く、リスク低~最大のサイトについてはサイト名を公開しないことになっています。

 評価の概観としては、日本のニュースサイトにおいては、「偽情報のリスクはかなり限定的」ということになっています。この後細かく見て行きますが、日本のニュースサイトの特徴としては、コンテンツ・ピラーの得点が高く、運営ピラーの得点が低い点が挙げられます。

リスク評価の指標について

 GDIの評価方法は、コンテンツ・ピラー(軸)と運営ピラーに分かれています。細かい指標や定義は以下の通りです。

gdi_japan-japanese-mmr-report-online_feb-23-18

 

コンテンツ・ピラー

 日本はコンテンツ・ピラーの評価が高い傾向(平均79点)にあります。

gdi_japan-japanese-mmr-report-online_feb-23-12 ネガティブ・ターゲティングや釣りタイトルなどは少なく、コンテンツ軸だと偽情報のリスクはあまりないと言えます。

運営ピラー

 一方で、運営ピラーの得点は低い(平均43点)傾向にあります。

gdi_japan-japanese-mmr-report-online_feb-23-14 運営ピラーは、サイト運営の透明性や説明責任についての評価です。得点の低さは、運営体制や資金の流れ、帰属、編集の方針や実践がきちんと説明・公開されていない状態を表しています。

 コンテンツ・ピラーと運営ピラーを足して2で割ったものがそのサイトの得点です。日本の33サイトの平均得点は100点満点中59点でした。

他国のリスクアセスメントについて

 さて、では、他国の状況はどうなのでしょうか。直近でリリースされていたアメリカ、イタリア、フィリピンの3ヶ国の報告書を見てみましょう。

アメリカ

gdi_us-mmr-22-11引用:GDI|Disinformation Risk Assessment: The Online News Market in the United States

 ・対象は69サイト
 ・コンテンツ・ピラーが79点と高く、運営ピラーが47点と低い
 ・アベレージスコアは63点

イタリア

gdi_italy-disinformation-risk-assessment-report-online_mmr-09引用:GDI|The Online News Market in Italy

 ・対象は34サイト
 ・コンテンツ・ピラーの得点が高く、運営ピラーの得点が低い
 ・アベレージスコアは53点

フィリピン

gdi_philippines-mmr-report-online_feb-2023-09引用:DGI|Disinformation Risk Assessment:The Online NewsMarket in the Philippines

 ・対象は35サイト
 ・コンテンツ・ピラーが85点と高く、運営ピラーが25点と低い
 ・アベレージスコアは55点

比較

 この4ヶ国に共通するのは、コンテンツ・ピラーの得点が高く、運営ピラーの得点が低いという点です。特にフィリピンは、4ヶ国の中で最もコンテンツ・ピラーの得点が高い(85点)一方、運営ピラーの得点は最も低く(25点)、最も差分が大きい結果になりました。
 サンプル数が少ない状態ではあるものの、国の広さや国民の人数、国の情勢などによってニュースサイト運営に関する透明性が高いわけではないということは言えるかもしれません。

 また、GDIのサイトには様々な国の報告書があるので、ぜひご覧ください。
 https://www.disinformationindex.org/

偽情報対策の可能性について

偽情報を拡散させる動機とは

 そもそも偽情報は、プロパガンダや民意の分断、政治的な混乱、思想などの違いから特定の人物・団体の信用を傷つけたりするために作成されることが多いようです。それらは、クローズドな環境で醸成され、閉じたコミュニティから発信されます。
 その後、ネットメディアやまとめサイトなどが取り上げ、SNSを通じて「拡散」されます。その拡散の理由は明確に「アクセス数を増加させることによる広告収入」です。そのため、今回取り上げたGDIのレポートにも、偽情報サイトの非収益化が挙げられているのです。

偽情報対策の可能性

 つまり、偽情報サイトを非収益化することができれば = 偽情報サイトに広告を掲載することを避けられれば、偽情報の拡散を防げる可能性があります。
 まだまだ取り組みの進んでいない日本の偽情報対策ですが、我々としてもできる限り協力していきたいと思います。 

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