民放連が指摘する違法アップロード動画と広告掲載の実態とは?

Momentumブログ編集部
2025-03-10
目次

民放連インタビュー記事バナー_03

(一般社団法人日本民間放送連盟 常務理事・事務局長 本橋 春紀氏(右)、Momentum株式会社 水野(左))

 

 2025年1月22日、総務省デジタル広告ワーキンググループにて発表された「違法アップロードコンテンツと広告に関する実態調査(主体:一般社団法人日本民間放送連盟、調査:Momentum)」にて、違法アップロードされた民放コンテンツに約460社の広告が確認されるなど、違法コンテンツへの広告付与における被害状況が判明しました。この調査は、新聞・テレビ等多くのメディアに取り上げられ、SNSプラットフォーム上でも話題となりました。

調査を実施した一般社団法人日本民間放送連盟の常務理事・事務局長 本橋 春紀氏に、調査に至った背景や今後の展望についてインタビューしました。

日本民間放送連盟についてお聞かせください。

 日本民間放送連盟(民放連)は、全国の民間放送事業者を会員とする一般社団法人です。会員207社(正会員204社・準会員3社)で構成されています(2025年3月現在)。

 定款では民放連の目的を「放送倫理水準の向上をはかり、放送事業を通じて公共の福祉を増進し、その進歩発展を期するとともに、会員共通の問題を処理し、あわせて相互の親ぼくと融和をはかること」と定めています。

今回の調査に至った背景をお聞かせください。

 民放のコンテンツは、インターネット上に多数違法アップロードされています。それだけでなく、インターネットの規模が拡大するにつれて、普段放送にご出稿されているような大手広告主の広告が違法アップロードされた民放コンテンツについているのを目にする機会も増えてきました。

 民間放送は広告主から受け取った広告費を制作に関わる多くの関係者に還元することを通し、優れたコンテンツが制作される環境を維持しています。違法アップロードコンテンツが多く存在する状況では、本来民間放送や民間放送に関わるステークホルダーが受け取る可能性のあった広告費が、違法アップローダーやプラットフォーム事業者に流れてしまっていることになります。これは民間放送のビジネスモデルを毀損し、事業の継続を危うくするものだと考えています。今回、Momentum社の協力を得て、違法アップロードと広告に関する実態について調べ、社会に対して問題提起したいと考え調査を実施しました。

調査結果についてお聞かせください。

 民放事業者の著作権等を侵害し、民放コンテンツが違法にアップロードされている状況について調査を行いました。そのうえで、違法アップロードされた民放コンテンツに付随して表示されている広告の実態を調査しました。


画像1

デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会デジタル広告ワーキンググループ(第5回)配付資料:一般社団法人日本民間放送連盟発表資料p.3より引用

 

今回の調査において違法アップロードされた民放コンテンツとともに表示されていた広告主の総数は約460社でした。このうち、広告活動の健全な発展に努力をされているJAA(公益社団法人日本アドバイザー協会)の会員267社を、大手広告主と仮に定義しました。

 JAA会員社では84社の広告が表示されていることを確認しました。JAAの会員以外にも多くの皆様がご存知の大手企業が存在します。社会的責任やコンプライアンスがより厳しく問われる大手企業や地方公共団体の広告も違法アップロードコンテンツとともに相当数掲載されていました。

JAAは2019年11月に「デジタル広告の課題に関するアドバイザー宣言」を発表しています。この中で厳格なブランドセーフティの担保を訴え、プラットフォーム事業者などに対して、ブランドセーフティを担保するためのツールの導入などを求めています。今回の調査では、JAAのこうした取り組みにもかかわらず、ブランドを毀損するおそれの強い違法アップロードコンテンツに広告が掲出されてしまっている実態が明らかとなりました。

 その背景には、予約型広告と言われる従来のマスメディア上の広告枠とは異なり、運用型広告においては、広告主が広告掲出場所を具体的に指定できないことがあります。結果として、広告主の意図に反した場所で広告掲出されていると考えております。

画像2前掲:p.5より引用
 

 YouTubeでは、約1ヶ月という今回の調査期間に限っても、大手広告主267社のうち約2割にあたる52社の広告が違法アップロードされた民放コンテンツとともに表示されていました。自治体や行政機関の広告も違法アップロードコンテンツに掲載されていることが確認できました。

画像3-1

画像4前掲:p.6,7より引用

 

 次にFacebook、TikTok、Xのことについてお話します。これらのプラットフォームでも同様に違法アップロードされた民放コンテンツに大手広告主の広告が表示されていました。表示された広告に業種の偏りはなく、幅広い分野にわたっていました。

 調査期間中に全ての大手広告主がインターネット上でキャンペーンを展開していたわけではありませんので、通年の調査を行えば、違法アップロードコンテンツに表示されている広告主の数はより多く検出されると考えています。

画像5-1

画像6

前掲:p.8,9より引用

 

 続いて、違法アップロードコンテンツにどれだけの頻度で大手広告主の広告が掲載されるかを調べました。

 YouTubeに違法アップロードされたコンテンツに民放のコンテンツを25件サンプルとして抽出し、同じ違法動画を繰り返し再生し、その都度表示される広告を調べたところ、4割前後が大手広告主の広告でした。

表示された広告の広告主の業種に偏りはなく、飲料会社・食品会社・自動車会社・衛生用品メーカー・インターネットサービス会社など多くの分野にわたっていました。

画像7画像8前掲:p.10,11より引用

 

 違法アップロードされたコンテンツをもっぱら掲載したWebサイト、いわゆる海賊版サイトや、そういったサイトへの案内サイトになっているリーチサイト、こうした悪質なサイトにも、大手広告主の少なくとも44社の広告が表示されていました。こちらも広告主の業種に偏りはありませんでした。

今後の展望をお聞かせください。

 限られた期間の調査でも、広告主が支払った広告費が違法行為を行う者やプラットフォーム事業者に流れ込んでいるという実態が明らかになりました。これはあくまで「氷山の一角」との認識です。


 民間放送は広告費を主たる財源とするビジネスモデルにより、報道と娯楽の両面で公共的な役割を果たしています。民放の事業活動から見れば、ドラマやバラエティーなどで得た広告費を財源にして、取材や編集にコストがかかる日々のニュース番組をはじめ、災害報道や調査報道などを維持しています。違法アップロードが野放しになると、知る権利に応えるための取材や報道を行っていくことが困難となり、民主主義を支える役割を果たすことができなくなりかねません。違法アップロードコンテンツに大手広告主の広告が表示されることは、広告主にとってもイメージを毀損し、望ましいことではないと考えています。


 今回の調査は、私たちと私たちの制作パートナーの権利を侵害する違法アップロードコンテンツに限って行いましたが、違法アップロード以外にも、ネットには問題のある情報やコンテンツが多数あります。アダルトサイトや偽・誤情報に関わるようなサイト、暴力を礼賛するようなサイトなど、そういったコンテンツに大手広告主の広告がついていることは大変心配な状況だと考えています。


 民放連はデジタル空間上の広告の実態について、今後も調査を続ける予定です。今回の調査を経て、各方面から継続すべきだというお声を頂戴しております。次に行う調査では、どのような手法が良いのか、引き続き検討してまいります。


 私たち民放として最もアピールしたいのは、「民放はテレビやラジオ、TVerなどの民放が提供しているネット上の広告媒体においても、安心して広告を出せる」ということです。民放自身がそうした媒体であり続けるために努力を続けていくのはもちろんですが、このインタビューをご覧になっている皆様のご理解も欠かせません。デジタル空間の広告のあり方だけでなく、広告産業の健全性の確保に向けて、民間放送は広告会社、広告主の皆様と連携していきたいと考えています。


日本語横

 

今回お話を伺ったのは…

一般社団法人日本民間放送連盟


日本民間放送連盟(民放連)は、基幹放送を行う全国の民間放送事業者を会員とする一般社団法人です。

 

https://j-ba.or.jp/

 

  • facebook
  • mail

関連する記事

banner

おすすめ記事

カテゴリー

ニュースレター購読