2025年2月13日、Momentumはサービス導入企業様向けに「広告炎上のリスク管理とDEI対応の最前線」と題したセミナーを開催しました。
本セミナーでは、「炎上から学べる社会をつくる」を目指しSNS上で「広告炎上チェッカー」として活動するAD-LAMP代表の中村ホールデン 梨華氏をお招きし、広告の炎上リスクと多様性・公平性・包括性(DEI)への配慮について講演いただきました。
Momentumでは、広告主のブランド価値毀損する恐れのあるWebサイトやアプリ、YouTubeチャンネルのリストをHYTRA DASHBOARDで提供し、広告主のブランド価値を高めています。弊社の既存のお客様向けに、他の手法でのブランド価値を保つ手法についてセミナーで取り上げられないか?と考え、今回このセミナーを企画いたしました。
炎上広告とは何か?
中村氏は、まず広告には「企業利益のため」だけでなく、「見えない教育」として消費者に無意識の影響を与える機能がある点を指摘しました。そのため、ステレオタイプを孕んだ広告は、消費者に刷り込み、そのステレオタイプを社会に対して強化する可能性があります。
そして広告炎上には大きく分けて2つのパターンがあり、1つは広告の内容に関わらず消費者が盛り上がる「祭り」の側面、もう1つは広告に原因があり社会からの批判が殺到する「制裁」の側面があることを論文を参照し、説明しました。
特に後者の「制裁」の場合、広告が世の中に届けたいメッセージや商品価値の訴求自体が批判対象となり、企業イメージの低下や株価下落に繋がる可能性もあるという学術データを提示しました。

炎上のメリットとは
中村氏によれば、炎上は企業からすればリスクと思われがちだが、社会視点で見ると、今まで見えていなかった社会の声や意見が顕在化することであると言います。
例えば、女性や性的マイノリティ、若者、広告で想定したターゲット外の人など、広告を作る際に想像できていなかった人の声や反応が、炎上の投稿を通して見えてくることがあると説明しました。
その上で炎上とはこれまで見えていなかった社会の声との「価値観の摩擦」から起こるものであり、炎上がなくなることはないことを指摘。炎上によって多様な声が可視化されることはリスクではなく広告表現に新しい視点を取り入れるチャンスであると述べ、広告炎上から学ぶことの重要性を強調しました。
実際の炎上事例から学ぶこと
セミナーでは、実際の広告炎上事例を題材としたワークショップが行われ、その広告のどの要素が炎上につながったのか、活発な意見交換が行われました。
その一つとして、ある介護士募集の広告炎上事例では、市民からの指摘として実際に介護士になるのは40代が多いにも関わらず、広告では20代女性が起用されており、「レプレゼンテーション」(社会の実態を反映して、現実世界とメディアの表象を近づけること)の視点が欠けている点が解説されました。
実際にメディア業界の課題として、テレビや広告では若い女性ばかりが起用され、40代以降の女性が起用されないことがあります。メディアの継続的な表象によって女性は若くて美しいものという社会通念を強化してしまう可能性を指摘し、それが回り回って「女性は綺麗でなければならない」という女性差別やルッキズムの強化といった社会的圧力への加担に繋がってしまうと指摘。
このように、広告は長期的に社会に影響を与えるため、広告内容が実社会と近しくなっているか、という視点もDEIの文脈を加味する手法になると述べました。
炎上広告に共通する消費者保護意識の欠如
中村氏は、炎上してしまった広告には共通して消費者保護の意識が欠如している点を指摘しました。
企業は影響力を持った団体であり、消費者に対して影響を与えやすい立場にあるため、無意識に広告から思想や思考の影響を受けてしまう消費者を広告の悪影響から守る意識を持つべきと語りました。
日本の広告業界の構造的な問題点
さらに、企業が炎上を恐れてしまう背景には、日本の広告業界の構造的な問題がある点を指摘しました
日本には広告の審査機関がなく、消費者に悪影響を与える広告の出稿を止める規制システムや機関がないため、炎上が起きた時はすべて広告主や代理店、制作会社といった作り手の責任になってしまうと述べました。
消費者保護意識を持つために必要なこと
中村氏は、炎上はなくならないことを踏まえ、広告制作での覚悟の決め方について
- 触れる:価値観や信念の多様性が存在することを知り、様々な価値観に触れる
- 学ぶ:一つ一つの価値観がどう評価されているかを学ぶ
- 覚悟を持つ:批判に対して説明責任を果たす覚悟を持つ
という3つのステップを解説しました。
特に3つ目の「覚悟を持つ」は一番難しいとした上で、企業としてなぜその広告表現になったのか説明責任を果たす準備は可能であると指摘。コーポレートポリシーに準じながらその広告表現の意図を説明できるように備えることが炎上に向き合うのに有効であると述べました。
まとめ
本セミナーでは広告炎上のリスクやその原因について中村ホールデン 梨華氏に講演をいただきました。
広告炎上の背景には広告制作時に見えていなかった消費者インサイトの存在があります。消費者は無意識に広告から影響を受けてしまうので、消費者保護意識を持って広告表現に取り組む必要性が語られました。
一方、世の中には多様な価値観が存在する以上、炎上リスクがゼロになることがない点も指摘されています。
多様な価値観について学び、消費者保護意識を持って広告表現に臨むことはもちろんのこと、過去の、そしてこれからの炎上から学び、生かしていく姿勢が重要といえます。
※本記事内のスライド画像は、2025年2月13日に開催された「広告炎上のリスク管理とDEI対応の最前線」セミナーにおける中村ホールデン 梨華氏の講演資料より引用しています。スライド画像は中村氏の許可を得て掲載しております。
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今回ご講演いただいたのは… 「炎上から学べる社会をつくる」 AD-LAMP代表
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