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【寄稿記事】ファミリマート「お母さん食堂」に寄せられた多くの批判 実は「計算通り」だった?

2021/10/15 8:30:00 / by Mometnum株式会社

 広告に話題性は欠かせません。現代のようなインターネット社会では、広告がどのメディアを通して行われようと、その話題はネット上で拡散していきます。それは、ネットユーザーの誰もが意識・無意志のうちに広告に関わり、宣伝効果に影響を与え得る存在であるということを示唆しています。

 「お母さん食堂」―そのネーミングとCMをめぐって巻き起こったSNS上での議論。そこで、ストーリーテラーとしての消費者は、一体、何を語ったのでしょうか。そして、そこからみえてくるものとは?


「お母さん食堂」をめぐる議論


 twitterのスペースは不思議なしゃべり場です。そこは、開かれていて、同時に閉じられている場所。フォロワーに限らず、誰でもアクセスすることができ、リアルに話せます。だれが参加しているのかも、ユーザーなら誰でも知ることができます。しかし、そうはいっても、お喋り仲間は、twitter上で「つながっている」と思えるユーザーでなければなかなかハードルが高く、結果として仲のいい者同士が集うことが多い。そういう意味では閉じられた空間ともいえます。

 以下は、ある日のスペースでのお喋りです。

 

・話題は「お母さん食堂」


「案の定、フェミニストの反発を招いてますねー」
「でも、もしかしたら、あのネーミング、フェミニストが反発するの、折り込み済みだったんじゃないでしょうか?」
「そうですかねー? わかってて、そんな面倒な状況を招くかなあ?」
「うん、確かに」
「でも、そうなる可能性がわかってたから、CMに慎吾ちゃんを起用したんじゃないの? しかも、かっぽう着姿だし」
「ああ、なるほど。“おかあさんって、そういう意味じゃないんですよ”っていうメッセージってことですね?」
「“そういう意味”って?」
「“ご飯作るのはお母さんの役割”的な・・・」
「あ、だから、慎吾ちゃんなのか!」
「そう、慎吾ママ!」
「“おっはー”の・・・」
「そう、そう」


 話題は「お母さん食堂」。ファミリーマート(以下、「ファミマ」)が2017年から展開するオリジナル惣菜と食材のブランドです。コンセプトは、以下のようなもの。*1


 「お母さん食堂」は、毎日の生活にどこか懐かしくあったかい商品をご提供できないか、美味しくて便利な商品をご提供できないか、そんな想いからファミリーマートが自信を持ってお届けするオリジナル惣菜・冷凍食品ブランドです。

 

図1 ファミリーマートの「お母さん食堂」シリーズ

*1:ファミリーマート「お母さん食堂」
https://www.family.co.jp/campaign/spot/2007_okasanshokudo.html

 


・「慎吾母」は女性の見方なのか、それとも?


 このネーミングをめぐって、SNS上では議論が巻き起こっていました。

まず、反発したのはフェミニストたちです。「お母さん」と「食堂」という言葉の組み合わせと、それが惣菜と食材のブランドであることから、このネーミングは「お母さん=料理・家事」というイメージを喚起させる。女性は家で家事を分担するものだという、伝統的固定的なジェンダーバイアスを助長する、というのがその主張です。

 さらに2020年には、京都、兵庫、岡山の高校生たちが、change.orgで「ファミリーマートの『お母さん食堂』の名前を変えたい!!!」と銘打った署名運動を展開し、7,563人の賛同者を集めて話題になりました。*3

 ところが、ことはそう単純ではありません。イメージキャラクターに起用されたのは元国民的なアイドルグループSMAPのメンバーのひとりだった、香取慎吾氏でした。和服にかっぽう着でCMに登場したその姿を見て、20年前に子どもだった世代は、すぐに「慎吾ママ」を連想したにちがいありません。慎吾ママは、1998~2002年にフジテレビ系で放送されたバラエティー番組「サタ☆スマ」の中の「慎吾ママのこっそり朝御飯」というコーナーから生まれたキャラクターです。*4、*5

 その番組の中で慎吾ママは毎回、視聴者の中から選ばれた家庭に、早朝、エプロン姿でそっと忍び込み、朝いつも忙しいお母さんの代わりに、その家の子どもたちに朝御飯を作ってあげていました。「おっはー!」はそのときのお決まりのあいさつです。朝ごはんの後は、子どもを見送り、朝の家事を肩代わり。たまには朝寝坊させてあげようと、お母さんの目覚まし時計を慎吾ママがこっそり止めるのがコーナーの見せ場でした。つまり、慎吾ママはお母さんの助っ人だったのです。


図2 「慎吾ママ」(左)とお母さん食堂のイメージキャラクター「慎吾母」(右)を務める香取慎吾氏
出典:<左> *5 WEB JAPAN(外務i省)「流行通信 2000年7月-9月 慎吾ママ」
https://web-japan.org/kidsweb/ja/archives/cool/00-07-09/shingomama-j.html
<右>*1 ファミリーマート(2019)「『おっはー』から19年・・・ママが母になって『おっつー』日本中を食と笑顔で癒す慎吾母、遂にCMに初登場!」
https://www.family.co.jp/company/news_releases/2019/20190924_02.html

 


 実際に、「お母さん食堂」のCMに登場する「慎吾母」は、慎吾ママの20年後の姿である想定されています。*1 その文脈でいうと、慎吾母は忙しいお母さんたちに寄り添い、お母さんたちに代わって食事を提供する強力なサポーターということになります。

 ここで、冒頭のお喋りに戻りましょう。20年前の慎吾ママを伏線にしていることが、「お母さん食堂」のイメージキャラクター慎吾母の登場に複雑な文脈を与え、それが話題になっていました。そのことを、あらかじめフェミニストの反発を想定した上での戦略だと、お喋りの参加者は考えたわけです。でも、そうだとすると、それでも「お母さん食堂」をめぐって議論が巻き起こったのは、ファミマの誤算だったということなのでしょうか。

 


デジタル時代のプロモーション

 上の疑問の答えを探るために、ここで少し回り道をして、インターネットの利用状況を概観し、デジタル時代のプロモーションについて考えてみます。


・デジタル社会の進展


 現在、日本では13歳から59歳までの世代では、ほぼ100%がネットユーザーで、60歳代のユーザーも90%を超えています。*6

 



図3 年齢階層別インターネット利用率
出典:*6 総務省(2001)「令和2年通信白書のポイント 第2部 基本データと政策動向」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/html/nd252120.html

 

 次に世帯保有率をデバイス別にみると、モバイル端末はほぼ100%の世帯で利用されていることがわかります。*7

 


図4 情報通信機器の世帯保有率
出典:*7 総務省(2021)「令和3年「情報通信に関する現状報告」(令和3年版情報通信白書)」 p.2
https://www.soumu.go.jp/main_content/000761871.pdf


 したがって、現在は60歳代までのほとんどといってもいいほど多くの人が、モバイルを使ってインターネットを利用していることになります。

 次に、SNSの利用状況をみてみましょう。


図5 スマホのユーザーが現在利用しているSNS
出典:*8 MMD研究所(2021)「現在利用しているSNS「Instagram」が41.3%、2014年より27.8ポイント増、「TikTok」は2018年より5.6ポイント増」
https://mmdlabo.jp/investigation/detail_1910.html

 

 図5をみると、スマホのユーザーの多くがさまざまなSNSを利用していることがわかります。
こうした状況を背景として、現在ではプロモーションのあり方も従来とは異なる側面をみせています。


・SNSとストーリーテリング


 マーケティング理論の権威、コトラー博士は、こうしたデジタル時代には、プロモーションの概念も進化しつつあると述べています。*9

 SNSのプラットフォームでは、相手を知っていて信頼している1対1の関係がネットワーク間のつながりに発展し、多数対多数のつながりが築かれます。
これは、外からみると見知らぬ者同士の関係に見えても、多くの場合、最強のコミュニティ形態のひとつです。消費者は、コミュニティのネットワークの中で、お互いに横の関係で社会につながっている存在です。その中では、ブランドに関するニュースが語られ、そのニュースはネットワークに拡がっていきます。それは「本物のストーリ―」であって、広告がとってかわることはできません。

 かつては企業が消費者にメッセージを送り、消費者個人がブランドに対する自分の態度を決めていました。しかし、今では、消費者は企業のメッセ―ジについて他の消費者と「会話」することができます。つまり、消費者の最終的な態度を決定するのは、SNSなどのネット上のコミュニティであり、個人的な決定と見えるものの多くも、実は社会的決定だとコトラー博士は述べているのです。

・ストーリーテラーとしての消費者

 ここで先ほどの疑問にもどりましょう。20年前の慎吾ママを伏線にした「お母さん食堂」の慎吾母。それは、あらかじめフェミニストの反発を想定した上での戦略だと、お喋りの参加者は考えていました。でも、そうだとすると、それでも「お母さん食堂」をめぐって議論が巻き起こったのは、ファミマの誤算だったということなのでしょうか。コトラー博士の理論を視野に入れて考えると、もしかしたら、ファミマは最初からこうした話題性を狙っていたのかもしれないと思えてきます。

 「お母さん食堂」というネーミングにこめられたメッセージは、ある人にとってはあたたかい家庭や優しい母親の手作り料理を連想させますが、別の人にとっては旧態依然として進まぬ日本のフェミニズムの象徴と映ります。また、このコマーシャルに登場する慎吾母に込められた企業からのメッセージも、個々の消費者によって受け止め方はまちまちでしょう。そのことが消費者の議論を呼び、そうした議論自体が宣伝効果を産んでいるという側面があるのではないでしょうか。

 ネット時代に生きる私たちは、誰もがストーリーテラーです。私たちは、「自らのストーリーを語ること」によって、好むと好まざるとにかかわらず、また、意識・無意識を問わず、宣伝効果に大きな影響を与え得る重要なファクターとなっているなのです。そういう意識をもって広告を見つめ直してみると、企業が私たちにどうアプローチし、なにを実現しようとしているのか、その姿勢や価値観までもが、より透明度を増して見えてくるのではないでしょうか。

 


・参考文献/引用元
*1:ファミリーマート(2019)「『おっはー』から19年・・・ママが母になって『おっつー』日本中を食と笑顔で癒す慎吾母、遂にCMに初登場!」
https://www.family.co.jp/company/news_releases/2019/20190924_02.html

*2:ファミリーマート「お母さん食堂」
https://www.family.co.jp/campaign/spot/2007_okasanshokudo.html

*3:change.org(2020)「ファミリーマートの『お母さん食堂』の名前を変えたい!!!」
https://www.change.org/p/%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%9F%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%83%88-%E9%A3%9F%E5%A0%82%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%AF%E3%83%88

*4:毎日新聞(2021)「ファミマ・お母さん食堂に異議 声上げた高校生に『慎吾ママ』生みの親がエール」(2021/1/23 12:00、最終更新 1/29 10:18)
https://mainichi.jp/articles/20210122/k00/00m/040/397000c

*5:WEB JAPAN(外務省)「流行通信 2000年7月-9月 慎吾ママ」
https://web-japan.org/kidsweb/ja/archives/cool/00-07-09/shingomama-j.html

*6:総務省(2001)「令和2年通信白書のポイント 第2部 基本データと政策動向」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/html/nd252120.html

*7:総務省(2021)「令和3年「情報通信に関する現状報告」(令和3年版情報通信白書)」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000761871.pdf

*8:MMD研究所(2021)「現在利用しているSNS「Instagram」が41.3%、2014年より27.8ポイント増、「TikTok」は2018年より5.6ポイント増」
https://mmdlabo.jp/investigation/detail_1910.html

*9:フィリップ・コトラー+ヘルマワン・カルタジャヤ+イワン・セティアワン(2017)『コトラーのマーケティング4.0 スマートフォン時代の究極法則』朝日新聞出版(デジタル版)
<エビデンス キャプチャ>
https://drive.google.com/drive/folders/1oXp4V3giVcDGqz4WBfbCirIG8J7vgy-Z?usp=sharing

・執筆者
横内美保子(よこうち みほこ)
博士(文学)。元大学教授。Webライターとしては、主にエコロジー、ビジネス、社会問題に関連したテーマで執筆、関連企業に寄稿している。
Twitter:https://twitter.com/mibogon


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