デジタル広告市場レポート「デジタル広告市場の競争評価 最終報告(案)」を読む

恩田基輝
2021-05-24
目次

 4月27日、デジタル市場競争会議から「デジタル広告市場の競争評価 最終報告(案)」が発表されました。そもそもデジタル市場競争会議は、「グローバルで変化が激しいいデジタル市場における競争やイノベーションを促進するため、競争政策の迅速かつ効果的な実施を目的として、内閣に、デジタル市場の評価並びに競争政策の企画及び立案並びに国内外の関係機関との総合調整を担う」ために設置された、内閣官房長官(本部長)と経済再生担当大臣(副本部長)をトップとする組織です。2019年9月から2021年4月まで、5回にわたり会議が開催されました。

 最終報告(案)として「デジタル広告市場レポート」が公表されましたので、中身を見ていきたいと思います。ただ、PDF254ページをすべて読むわけにはいかないので、アドベリフィケーションに係る部分だけ抜粋して取り上げたいと思います。

 このレポートでは、デジタル広告市場に関して10個の課題が設定されています。課題①として、「[透明性]デジタル広告市場における質に係る問題」と題され、アドフラウドやブランドセーフティなど、デジタル広告の「透明性」の問題として取り上げられています。まず、下記が「問題の所在」です。

「デジタル広告市場は、急速に発展を遂げてきた一方で、依然として、アドフラウド、ブランドセーフティ、ビューアビリティ、ユーザーエクスペリエンスといった質の面において、多くの課題を抱えている状況にある。今後も成長が見込まれるデジタル広告市場の健全な発展を図っていく上では、これらの課題の解決は不可避である。」

 透明性の問題として、アドフラウド、ブランドセーフティ、ビューアビリティ、ユーザーエクスペリエンスが取り上げられています。このあと「背景」としてそれぞれの基本情報が説明されます。そのあと、このレポートがまとめた「諸課題に対する対応の状況」は下記の通りです。

・こうした諸課題に対して、一部の広告主においては、例えば、セーフリスト方式で、広告の出稿先を限定して広告の配信を行ったり、アドベリフィケーション・ツール(ブランド価値を毀損しかねないサイトへの配信やアドフラウドを防止したり、ビューアビリティを担保するためのツール)を活用するなどの対応が行われたりもしている。


・しかしながら、こうした対応を行う広告主は一部に限られており、多くの広告主は、インプレッション数やクリック数に関心が偏りがちであるとの指摘もある。

 他にも、JIAAの「アドフラウドに対するJIAAステートメント」(2017年8月)や、JAA「デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言」(2019年11月)、JICDAQの設立なども説明されています。また、「広告主の質の問題に対する理解・認識の実態やその背景」として、以下のような実態も明らかにされています。

・有限責任監査法人トーマツによる、従業員 5,000 人以上の比較的大規模な広告主を対象に行った「デジタル広告不正実態調査(2021 年 3 月)」によれば、アドフラウド、ブランドセーフティ、ビューアビリティといった課題について、全体の 59.5%がこれらの内容を認知しておらず、そのうち全体の 35.5%は言葉を聞いたことがなかった。内容を認知していると回答した人は、93.9%が対策の必要性を感じており、内容を認知していないと回答した人でも、内容を理解した後は、74.0%が対策の必要性を感じると回答した。さらに、これらの課題の中で対策の必要性を感じるものとして、ブランド価値やイメージ毀損に直結するブランドセーフティへの意識が高く(81.1%)、アドフラウド(68.3%)、ビューアビリティ(60.4%)が続く結果となった。他方、実際に対策に取り組んでいるのは、ブランドセーフティでも 23.0%、アドフラウドは 14.0%、ビューアビリティは 13.0%にとどまっている。

 そもそもの認知率が低く、課題自体を認識していない広告主がまだまだ多いですね。

 その後、広告主やプラットフォーマー、代理店、パブリッシャーからのヒアリング事項が並べられます。各事業者が具体的にどう感じているかは面白いので、ぜひ実際のレポートを読んで頂ければと思います。このセクションの最後に「本課題の解決に向けての基本的な考え方」が示されます。

デジタル広告市場の健全化において、デジタル広告の質の問題は極めて重要な問題である。その課題解決に向けては、広告主やパブリッシャーも含めた関係事業者が、正しい認識をもって対応策を実行していくこと、相互理解を高めて取引を行っていくことが求められる。それぞれの問題の要因や対応策が異なることを前提としつつも、業界の関係者全体で改善に向けて取り組むべき課題である。

 サプライチェーンの各事業者がそれぞれ説明責任を意識し、透明性の確保を前提にしたイノベーションをもって改善していくべきである、ということが言われています。

 デジタルマーケティングにかかわる担当者にとって興味深い議論が他にも展開されているので、ぜひ実際にお読みください!

 

━リンク━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  1. デジタル市場競争会議
    https://www.kantei.go.jp/jp/singi/digitalmarket/kyosokaigi/index.html

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