SNSでお気に入りのインフルエンサーの投稿をチェックしたり、商品の購入前に口コミを検索したりする消費者が増えています。SNSが商品の購入やサービス加入の起点となるケースが目立つようになったことで、SNSを活用した販促施策を行う企業が増えています。
このような状況の中で、自然な投稿を装い商品やサービスを宣伝するステルスマーケティング、いわゆるステマが行われていることがあります。ステマと中立な口コミを見分けるのは難しく、消費者は知らないうちに誘導されているかもしれません。
方法とは?
ヒントを得る
消費者の自主的・合理的な選択を阻害することへの懸念から、2022年9月より、消費者庁は規制導入に向けてステルスマーケティングに関する検討会を開催しています。
そこで本記事では、ステルスマーケティングの定義やその手法、日本における規制導入に向けたステマ検討会の最新動向についてご紹介します。
ステルスマーケティングとは
ステルスマーケティングをわかりやすくいえば、広告であることを隠して配信する広告手法のことです。報酬を得ているのに消費者のようにふるまい、好意的な体験談などを発信してユーザーの印象を操作することで事業者の売上増を目指します。ステルスの日本語訳は「隠密」です。ステルスマーケティングは一般的に「ステマ」と呼ばれており、「やらせ」や「サクラ」と近い意味といえるでしょう。ステルスマーケティングとは、学術的には次のとおり定義されています。
ステルスマーケティングとは、マーケティング・メッセージを制作または後援する企業との真の関係を開示または明らかにしない、不正なマーケティング手法を使用することである。(Martin and Smith, 2008)
過去にはペニーオークション詐欺事件が起きており、発覚した当時には関わった芸能人のSNSが炎上しました。SNSの運営会社はステマをガイドライン違反と見なし、アカウント削除などの対応をするとの発表をしています。
ステマという手法が選ばれる理由
学術的には「不正なマーケティング手法」だと明確に定義されているにもかかわらず、なぜステマが行われ続けているのでしょうか?ステマが発生する理由や背景として、次の2つが挙げられます。
- 消費者は企業広告を回避するという認識
- SNSまたはソーシャルメディアの広がり
1. 消費者は企業広告を回避するという認識
1つめは、Instagramなどを用いた複数の消費者実験の結果を指しています。企業がスポンサーについているという「広告開示」をすると、投稿の透明性は高まる一方で商品やブランドへの評価を下げると考えられているのです。
SNSにおいて広告開示は、「#sponsored」「#pr」などの文字情報(ハッシュタグ)によって行われます。信頼し影響下にあるインフルエンサーが報酬を得て宣伝目的の投稿を行うと、消費者は公平性に欠けると感じて気持ちが離れるというわけです。
2. SNSまたはソーシャルメディアの広がり
2つめはSNSを介して消費者同士が気軽に情報交換できることから、SNS上なら芸能人でなくてもインフルエンサーになれる昨今の状況を指しています。
PR・ブランドタイアップ投稿でも信頼性は変わらない傾向
しかしながら、1つめについてはTHECOOによる2022年9月の調査では逆の結果が出ています。次に示すとおり、広告開示がなされても回答者の半数以上(54.4%)が信頼性は「高まる・変わらない」としているのです。
出典:THECOO|THECOO、消費者のSNS利用とインフルエンサーに関する意識調査を実施
THECOOの調査結果から、「PR投稿は商品やブランドへの評価を下げる」という認識は、必ずしも事実とはいえないことがわかりました。
よくあるステルスマーケティングの2つの手法
よくあるステルスマーケティングの手法としては、次の2種類があります。
- ステマ指示を出して著名人やインフルエンサーに推奨してもらう
- 一般消費者になりすまし口コミや商品レビューを投稿してもらう
ここでは、それぞれの手法について見ていきましょう。
1. ステマ指示を出して著名人やインフルエンサーに推奨してもらう
利益提供秘匿型の手法です。少数の影響力のあるSNS上のインフルエンサーに報酬を支払うことで、広告開示をせずに商品を宣伝してもらいます。
2022年9月から、消費者庁は「ステルスマーケティングに関する検討会(以下、ステマ検討会)」を実施しています。第1回ステマ検討会では、ステマの実態調査が資料として提示されました。この実態調査によると、次に示すとおり41%ものインフルエンサーがステマの依頼をされた経験があると回答しています。そのうち45%のインフルエンサーが、ステマ依頼を受けたと回答しているのです。このことから、ステルスマーケティングはSNS上で広く行われていることがわかります。
出典:消費者庁ウェブサイト|ステルスマーケティングに関する実態調査
また同じく提示された「現役のインフルエンサーに対するアンケート結果」を見ると、ステマは悪いこととは思わないとの回答は9.0%、わからないが29.0%です。その理由として、広告であっても嘘の投稿ではないが74.1%、広告と示さないことも営業の自由の1つとの回答が33.3%にも達しました。
インフルエンサーが「ステマは不正なマーケティング手法だ」と認識していない現状を憂慮し、ステマ検討会では周知活動が必要だとしています。
2. 一般消費者になりすましクチコミや商品レビューを投稿してもらう
なりすまし型です。多数の第三者に報酬を支払い、クチコミサイトやECサイトに商品レビューを投稿してもらいます。広告とクチコミの違いは、情報を発信する側が事業者(売手)か、中立な立場の人かです。
実際に消費者の購買行動にもっとも大きな影響を与えるのが、「SNS検索で偶然見つけた投稿」という調査結果が、アジャイルメディア・ネットワーク株式会社から公表されています。
出典:アジャイルメディア・ネットワーク株式会社|[AMN調査リリース] SNSのクチコミが生活者の購入・来店に与える影響を調査
さまざまな研究を通じて、クチコミの投稿件数が多いと認知度の上昇や商品の人気度のシグナルとして消費者の購買行動に大きな影響を与えることもわかっています。クチコミ投稿件数が売上に及ぼす影響の大きさから、オンラインクチコミの数を不正に増やすステマが横行しているのです。
ステルスマーケティングはなぜ悪いのか?
ここまで、ステマの概要について解説してきました。では、なぜステマは悪いのでしょうか。不正なマーケティング手法と定義されるステマを避けるべき理由は、次の3つです。
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消費者を欺く行為であり、時には経済的損失を与える
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炎上すれば、広告の信頼性を毀損し経済活動に悪影響を及ぼす
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ステマがバレると既存顧客を競合他社に取られるリスクが高い
それぞれについて見ていきましょう。
1. 消費者を欺く行為であり、時には経済的損失を与える
アジャイルメディア・ネットワーク株式会社の調査結果でも明らかになっているとおり、多くの消費者はSNS上のクチコミを参考に購入を決断しています。宣伝目的であることを隠し、消費者にとって中立ではない情報を提供することは、消費者を欺く行為といえます。
また、ステマは事業者(売手)の利益だけを追求しており、消費者から自主的かつ合理的な商品選択の機会を奪っています。米国Amazon社で実施されたフェイクレビューの定量分析では、ステマは消費者に経済的な損失を与えていたことも示唆されています。
フェイクレビューによる影響を受けて低品質な商品を購入したことで、消費者が受ける損失は「1万円の買い物に対して1,200円相当」とするフィールド実験結果もあります。消費者は欺かれた結果、経済的な損失も受けており、ステマを正当化するのは無理があるといえるでしょう。
2. 炎上すれば、広告の信頼性を毀損し経済活動に悪影響を及ぼす
ステマに手を染めるべきではない理由の2つめは、ネットやメディア上で批判や非難が集中する、いわゆる「炎上」リスクがあるためです。ステマが発覚すると、消費者は強い拒否反応を示します。炎上すると、ステマを指示した事業者の信用を大きく傷つけるだけでなく、通常業務に支障がでたり取引先に迷惑をかけたりするでしょう。また事業者だけでなく、ステマに起用された芸能人やインフルエンサーへの信頼性も著しく低下します。
さらに正しく行われているマーケティングさえも、「ステマではないのか」と疑われるようになるでしょう。モラルを守ってステマ指示を出さない他の企業や、請け負わない芸能人やインフルエンサーにも疑いの目が向けられれば、経済活動が停滞するかもしれません。結果として、インターネット広告全体の信頼性や価値を損なうことにもなりかねません。
3. ステマがバレると既存顧客を競合他社に取られるリスクが高い
SNSの利用が拡大していることから、競合他社や消費者に自社のステマ行為を暴露されることがありえます。万が一、ステマを見抜かれて暴露されるような事態に陥れば、ブランドの毀損は避けられないでしょう。このようにステマがバレると消費者からの信頼を失い、結果としてライバル企業に既存顧客を奪われることにもなるため、最初から手を出さないことが肝要です。
ステマは違法?GDP上位9か国で日本だけステマ規制がない
ステマは不正なマーケティング手法だと学術的に定義されていますが、日本では違法なのでしょうか?実は名目GDP上位9か国で構成されるOECD加盟国において、日本だけがステルスマーケティングに対する規制がありません。OECD諸国とは、日本、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、韓国、豪州の9か国です。制度面で遅れが見られることから、日本の消費者はステマにさらされ続けています。実際にステマ検討会では、グローバルな事業者がステマを行っている可能性も指摘されているのです。
消費者庁は景品表示法にステルスマーケティングの規制を導入する方向
2022年9月から始まったステマ検討会では、「広告であるにもかかわらず広告であることを隠す行為」を景品表示法(以下、景表法)で規制すべきかどうかが議論されています。最終的には、景表法5条3号の指定告示に追加される方向でステマ規制が導入される見込みです。
これは2017年に、日本弁護士連合会から「ステルスマーケティングの規制に関する意見書」で提案された内容となります。消費者保護の観点から、制度整備に時間をかけずにステマ規制の早期実現を目指すことが妥当とする意見の一致がステマ検討会では見られているのです。
第2回検討会で明らかにされた事業者のステマへの取り組み
第2回ステマ検討会では、5つの事業者からのヒアリングが行われました。事業者は、広告代理店、インフルエンサーマッチングプラットフォームやクチコミサイトの運営者、「TikTok」提供のByteDance、Twitter Japanでした。
各社とも健全性を保つために、自主規制を設けるなどしてステマ排除に取り組んでいます。ヒアリングでは、インフルエンサーが弱者にならない仕組みづくりや投稿の有人監視などの施策が明らかになりました。
ステルスマーケティングに対する景品表示法の限界
現行の景表法ではステルスマーケティングを規制できないことから、ステマ検討会が開催されています。ここでは、ステマ検討会で議論されている景表法の「不当表示」についておさらいしましょう。
景品表示法における不当表示とは
景表法で規制されている不当表示とは、商品・サービスの品質、内容や価格などを偽って表示をすることです。嘘や大げさな表現によって、実際よりも著しく優良または有利と見せかける表示は、優良誤認・有利誤認を招く表示として消費者保護の観点から厳しく規制されています(景表法5条1号、同2号)。
一方、優良誤認・有利誤認表示ではないものの一般消費者に誤認されるおそれがあるものとして、内閣総理大臣が指定する不当表示は次のとおりです(景表法5条3号)。
- 無果汁の清涼飲料水等
- 商品の原産国
- 消費者信用の融資費用
- 不動産のおとり広告
- おとり広告
- 有料老人ホーム
ステマであっても表示内容に優良誤認・有利誤認がなければ規制されない
表示内容に優良誤認や有利誤認があれば、ステマによる表示に対しても景表法による措置が可能です。しかし表示内容に優良誤認や有利誤認がなければ、広告であることを「隠す行為」自体は現行の景表法では規制できません。そのためステマについては、景表法5条3号の指定告示に追加される方向で調整が進められているというわけです。
出典:消費者庁ウェブサイト|主な検討事項のこれまでの整理と今後の検討の視点
ただし優良誤認・有利誤認表示では「課徴金」を国庫に納付するよう命ずる行政処分を下せますが、指定告示に追加された場合には課徴金の対象外となります。実際にステマ検討会では、ステマを課徴金の対象とすることに消極的です。
課徴金の対象にすると事業者による情報発信を萎縮させることが懸念され、消費者が有益な情報を得られなくなるのは望ましくないとの見解が示されました。なお現行の課徴金額は、課徴金対象となる行為によって得た商品・サービスの売上額に3%を乗じて算出されます。
インターネット広告のリスク対策にはアドベリフィケーションがおすすめ
ステマ検討会において、問題があるとされる表示はインターネットにおけるものだとの見解が示されました。たしかにインターネットにおける広告は、登場以来20年以上を経た今でも成長し、新しいマーケティング手法として活用する事業者が急速に増えています。
政府がDXを推進するなど、インターネット文化は急成長していることから、ステマのようにルールが未整備であるなど隙が多いのも事実です。そのため広告出稿にあたってはリスクを考慮する必要がありますが、リスク対策に投入するリソースがないという企業も多いのが実態です。
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ステマ規制の導入をはじめインターネット広告環境の健全化が必要
近年、急成長中のインターネット広告において、一般の消費者を欺くステマや虚偽・誇大な不当表示が一部で横行しています。このような行為は消費者の不利益をうむだけでなく、掲載メディアの評価や信頼性を下げ、インターネット広告全体の信頼性や価値にダメージを与えるリスクがあります。このような状況において、今回ご紹介した景表法へのステマ規制の導入をはじめ、インターネット広告環境の健全化が必要となっています。
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