インターネット広告の中には、科学的根拠のない商品効果をアピールしたり、ユーザーにとって都合の良い情報ばかりを殊更に強調したりする「誇大広告」が後を絶ちません。誇大広告を行った場合、景品表示法に基づく措置命令や課徴金納付命令の対象となるほか、SNSの炎上等によるレピュテーションの毀損も懸念されます。インターネット上に広告を掲載する際には、景品表示法の広告ルールをきちんと理解しておくことが必要不可欠です。
そこで今回は、景品表示法によって禁止される広告表現や、違反時に事業者が負うリスクなどについて解説します。
方法とは?
ヒントを得る
◎景品表示法によって禁止されている広告表現のパターン
景品表示法では、「優良誤認表示」「有利誤認表示」「その他内閣総理大臣が指定する表示」を、一般消費者を誤導するおそれのあるものとして禁止しています。景品表示法上禁止される表現につき、要件および具体例を見てみましょう。
参考:表示規制の概要|消費者庁(ページ内リンク先含む)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/representation_regulation/
優良誤認表示とは?
「優良誤認表示」とは、実際の商品・サービスよりも著しく良い品質のものである、または他社の商品・サービスよりも著しく良い品質のものであると消費者に対してアピールすることをいいます(景品表示法5条1号)。
(例)
・カシミヤが80%しか含まれていないセーターについて、「カシミヤ100%」と表示した。
・「この最先端技術を用いているのは、日本国内で当社だけ!」と表示したものの、実際には他にも同じ技術を用いている国内企業が存在した。
有利誤認表示とは?
「有利誤認表示」とは、商品・サービスの価格などについて、実際の価格よりも著しく安い、または他社の商品・サービスよりも著しく安いと消費者に対してアピールすることをいいます(景品表示法5条2号)。
(例)
・「あなたは100名限定のキャンペーンに当選したので、今なら50%オフで商品を販売します」という文句で勧誘を行ったものの、実際には全員に対して同じ条件で商品を販売していた。
・「A社製品の2倍の容量が入っており、お得です!」と宣伝したものの、実際にはA社製品と同程度の容量しか入っていなかった。
優良誤認表示が、商品・サービスの「品質、規格その他の内容」を偽るものであるのに対して、有利誤認表示は「価格その他の取引条件」を偽るものであるという違いがあります。
その他に禁止されている広告表現(表示)は?
優良誤認表示と有利誤認表示以外にも、一般消費者に誤認されるおそれがあるものとして、以下の表示が禁止されています(景品表示法5条3号)。
①無果汁の清涼飲料水等について、果汁または果肉が使用されていない旨を明瞭に記載せずに、以下の表示を行うこと
・果実の名称を用いた商品名等の表示
・果実の絵、写真または図案の表示
・果汁や果肉と同一または類似の色、香り、味付け等がされている旨の表示②商品の原産国に関する不当な表示
・国内生産の商品について、外国の国名などを用いて表示を行うこと
・外国生産の商品について、原産国以外の国名などを用いて表示を行うこと
など
③消費者信用の融資費用に関する不当な表示
・利息、手数料その他の費用を含めた、実質年率を明瞭に記載しないこと④不動産のおとり広告に関する表示
・実在しない不動産についての表示
・実在するが、取引できない不動産についての表示(売約済みなど)
・取引の意思がない不動産についての表示⑤おとり広告に関する表示
・取引を行うための準備がなされていない商品やサービスについての表示
・供給量や供給期間が著しく限定されているにも関わらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない商品やサービスについての表示
・取引の意思がない商品やサービスについての表示
⑥有料老人ホームに関する以下の事項について、明瞭に表示しないこと
・土地又は建物についての表示
・施設又は設備についての表示
・居室の利用についての表示
・医療機関との協力関係についての表示
・介護サービスについての表示
・介護職員等の数についての表示
・管理費等についての表示
◎景品表示法違反を犯した場合、事業者が負うリスクは?
景品表示法違反の広告を行った場合、事業者に対して「措置命令」または「課徴金納付命令」が行われる可能性があります。また、SNS等を通じて広告の不当性・違法性が拡散されてしまうと、事業者としての評判(レピュテーション)が毀損される可能性が高いので要注意です。
措置命令によって広告が差し止められる
内閣総理大臣には、景品表示法違反の広告などを行っている事業者に対して、表示行為の差止めや再発防止策の実施を求める「措置命令」の権限が与えられています(景品表示法7条1項)。措置命令への対応には、時間・人員・資金の各方面でコストを支払う必要がありますので、事業者にとって大きなマイナスでしょう。
対象期間中売上の3%が課徴金として徴収される
景品表示法違反の広告(表示)を行うと、その広告によって利益が出ていたか否かにかかわらず、対象期間中売上に対して一律3%を課徴金として納付することが命じられます(景品表示法8条1項)。これを「課徴金納付命令」といいます。課徴金の対象期間は最大3年(掲載開始日~掲載終了後6か月以内に最後の取引をした日)です。「課徴金」は刑事罰とは異なりますが、売上が大きければ大きいほど高額となり、事業者にとっては大きなダメージとなります。
SNSの炎上等、レピュテーションリスクにも要注意
SNS上で広告に関する知識のあるユーザーにより批判され、それをきっかけとして一般ユーザーからも袋叩きに遭い、「誇大広告をしている信用できない会社」というイメージが一挙に定着してしまう事態が懸念されます。口コミが急速に広まってしまう昨今の状況では、社会の評判(レピュテーション)を失うことは、事業者にとって致命的です。
誇大広告は、一時的に消費者を引き付ける効果が期待できるものの、実態が判明した場合に広告主が被るリスク・デメリットの方が大きいと心得ましょう。
◎誇大広告(景表法違反)によるリスクを避けるためには?
景品表示法違反の誇大広告を避けるため、新規広告物を掲出する際には、毎回リーガルチェックを受けることが望ましいといえます。顧問弁護士がいれば、新しい広告物を作成するたびに、その都度相談できるでしょう。また、社内に法務担当者を置くことも、コンプライアンスチェックの観点からは有益です。売上ばかりを追求して、コンプライアンスを軽視していると、後からしっぺ返しを受けるおそれがあるので要注意です。広告表現などの観点からも、足下を固めたクリーンな事業運営を心がけてください。
◎まとめ
一般消費者を騙すような誇大広告を行った場合、消費者庁から重い処分を受けるリスクがあるとともに、SNSの炎上などによるレピュテーションリスクも無視できません。広告である以上は、多少の脚色が含まれることは仕方がないとしても、脚色には限度があるということです。インターネットが発展している昨今では、誇大広告を行うことのリスクは以前よりも増大しているため、広告を掲出する事業者の方は十分に注意する必要があります。ある程度資金や手間はかかりますが、顧問弁護士との契約や、社内の法務部門を充実させることを通じて、広告物に対するリーガルチェックの体制を整えることをお勧めいたします。
執筆者
阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
公式サイト:https://abeyura.com/
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