【今更聞けない】規制強化が進む「コンプレックス広告」ー消費者心理と事業者が考えるべきこと

恩田基輝
2021-10-12
目次

 ネット広告は、他のメディアより安い費用で済むこともあって、多くの事業者が利用していることでしょう。しかし近年、ネット広告のなかで「コンプレックス広告」が問題視されています。身体の一部を露骨に強調し、商品を使用すればそのコンプレックスが解消されるかのようにうたうもので、公的機関も規制強化に乗り出しています。
 コンプレックス広告の発信は消費者にどのような影響をもたらすのか、そして事業者は新しい時代の広告の在り方にどう向き合うべきなのでしょうか。

規制強化されるコンプレックス広告

 コンプレックス広告とは、体型や頭髪、肌など身体の一部の特徴を露骨に表現し、商品を利用すればそれらが解消されるかのようにうたうものです。差別的な表現が問題になっているだけでなく、定期購入契約の条件表示が曖昧なために苦情の対象になることも少なくありません。

 コロナ禍にあってインターネットを使う人が増え、またネット接続時間が増えた影響もあるのでしょう。その件数は全体として大幅に苦情が増えていますが、特にこれら健康・美容に関する広告への苦情の増加は圧倒的です(図1)。

 

図1  2020年度上半期の広告への苦情状況
(出所:「2020年度上半期の審査状況を発表」JARO=日本広告審査機構)
https://www.jaro.or.jp/news/20201207.html 

 「広告のような効果を得られない」「定期購入だとわかりにくい」といった苦情、そしてネット上の動画広告を中心に、肥満や薄毛などのコンプレックスに訴える広告に対しても意見が寄せられています*1。

 こうした背景もあり、JAROは広告審査にあたって、基準を改定し、これまでよりも強い措置を取るレベルを新設しました(図2)。

 

図2 JAROの新しい広告審査基準
(出所:「JARO審査基準改定について」JARO)
https://www.jaro.or.jp/news/ghuq7e0000002qfs-att/20200618sinsakizyun.pdf 

 

 これまでになかった「厳重警告」という基準を新設し、2020年4月から運用されています。不当性が高いと認められた広告については、「直ちに」削除・修正を求めるという姿勢です。従わない場合については、公表や告発等の措置を、従来ならば「取ることができる」としていたものを、「取る」と断言しています。

 なお、2020年上半期には、以下のような広告が厳重警告を受けています。

 

1)「飲むだけでみるみる痩せる」うたっているが、アフィリエイトサイトで痩身の根拠として掲載されたのは人工肛門の論文を加工したと思われるもの


2)「特許成分の○○なら10分で体の中から消臭」「今だけ500円」などとうたっていた


3)「ステロイド頼りだったアトピーがせっけんを変えただけで?」などとアトピーに効くような内容をうたっていた


4)「飲むだけなのにマッサージの9倍もの脚痩せ効果!」「初回10円」と動画広告で言っていたが、同梱の請求明細書に16100円と書かれていた

<引用:「2020年度上半期の審査状況を発表」JARO>
https://www.jaro.or.jp/news/20201207.html 

 また、ヤフーもこれらコンプレックス広告について、「一部の身体的な特徴に対し、卑下するような表現は、ユーサーに不快感を与えるため」として、掲載不可とする対策に乗り出しています*2。

コンプレックス広告はユーザーにどのような影響を与えるか

 コンプレックス広告が問題視されている理由は、ユーザーの冷静で正しい購入判断を妨げるからです。なお、これら悪質とも取れる広告は、実はどの事業者でも出してしまう可能性があります。というのは、ネット広告を出すに当たっていくつかサンプルを作る中で、「どちらがクリック数を稼げるか?」と比較していくと、表現は自然と誇大になっていくためです。どこかでこれを食い止めることが必要です。

個人の心理傾向

 さて、消費者庁の分析は、特に若い人を対象に実施されています。コンプレックス広告に関して言えば、次のような調査結果が得られています(図3)。

 

図3 心理別にみた契約状況
(出所:「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会 報告書<概要説明資料>」消費者庁)
https://www.caa.go.jp/future/project/project_001/pdf/project_001_180831_0003.pdf p5

 そして、コンプレックス広告で被害にあう、騙されてしまう人の傾向にはこのようなものがあると指摘しています(図4)。

 

図4 コンプレックス広告などから購入・契約に至りやすい心理傾向
(出所:「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会 報告書<概要説明資料>」消費者庁)
https://www.caa.go.jp/future/project/project_001/pdf/project_001_180831_0003.pdf p8

 

 もちろん、事業者であれば「ニーズを掘り出し、訴求したい」という考え方はあって当然です。マーケティング、営業上で、ある程度は必要な訴求方法であることは否めません。では、何が問題視されているのでしょうか。

注意すべき「3つの心理変化」

 冒頭にご紹介したような露骨なコンプレックス広告も含め、消費者庁は、広告が消費者に与える「誤信」「混乱」「浅慮」の3つの心理変化に注目しています(図5)。



図5 購入・契約の判断に至るまでの心理プロセス
(出所:「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会 報告書<概要説明資料>」消費者庁)
https://www.caa.go.jp/future/project/project_001/pdf/project_001_180831_0003.pdf p13

 

 これらを引き起こす広告は、問題性がある可能性が高いというものです。そして、購入や契約のトリガーになるのは、このようなきっかけです(図6)。

 

図6 購入・契約に至る勧誘手法
(出所:「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会 報告書<概要説明資料>」消費者庁)
https://www.caa.go.jp/future/project/project_001/pdf/project_001_180831_0003.pdf p4

 

 契約の期限を示し、迫る表現による購入・契約が最も多くなっています。しかし、これらの形で購入・契約に至った人の約6割が「今思えば、断ればよかった」と回答しています(図7)。

 

図7 購入・契約後の反応
*3「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会 報告書<概要説明資料>」消費者庁)
https://www.caa.go.jp/future/project/project_001/pdf/project_001_180831_0003.pdf p3

 

 コンプレックス広告を含む、上記3つの心理状態に陥らせた結果の契約は、大半が後悔されているということです。つまり6割は「二度と契約しない」となります。これが企業にとって良いこととは考えられません。また、SNSでの評判も広がりやすい時代であることや規制強化の動きを鑑みれば、コンプレックス広告はリスクの高いものとなっていくでしょう。

ネット広告の割安感が招く罠

 ネット広告は、他のメディアよりも安く配信できるために利用のハードルが高くありません。加えて、アフィリエイトなどを介したトラッキング、リターゲティングというメリットがあるために広がり続けています。しかし安価である以上、それなりのリスクが存在しています。

 まず、先ほどもご紹介したとおり、これまで規制が及ばなかったために無法地帯化し、過激な表現がまかり通るようになったことです。過激な広告を目にすることが当たり前になってしまうと、よりクリック数の多いものを作ろうとするのは人として当然の心理で、その「無法地帯」に甘んじてしまい、結果として苦情の対象となる危険性があります。現在は規制強化が進んでいますから、ある日突然不掲載あるいは消去勧告・指示といったことになりかねません。企業の信頼低下にも繋がります。

 また、IT各社がサードパーティークッキーの廃止に乗り出した、あるいは方針を決定しています。これにより、従来なら代理店任せにしていたターゲティング広告の多くが規制を受けることになります。ある日突然、自社が出していたネット広告が全滅する可能性が高くなっています。

 広告とは本来、自社の伝えたいことや理念を消費者に発信し、共感してもらうためのものであったはずです。しかし技術の進歩があらぬ結果を招き、混沌のなかにあります。言葉だけが踊り、その結果、信頼を損ねる、ネットユーザーに不快感を与える、トラッキング機能によって不安すら与える存在になってしまっています。このような流れから脱却し、真のブランドを認識してもらうためにも、事業者は確たるモラルを持ち、それに沿った広告作り、配信方法について改めて検討すべき時代が来ています。

 

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参考資料

*1「2020年度上半期の審査状況を発表」JARO
https://www.jaro.or.jp/news/20201207.html 

*2「7. ユーザーに迷惑となる広告の禁止【第9章3.4.関連】」ヤフージャパン
https://ads-help.yahoo.co.jp/yahooads/guideline/articledetail?lan=ja&aid=1513&o=default#c03 

*3「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会 報告書<概要説明資料>」消費者庁)
https://www.caa.go.jp/future/project/project_001/pdf/project_001_180831_0003.pdf p4

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