広告について、マスでの一方通行な訴求はもう古いと言われる中、SNSでの「ハッシュタグ」で商品などについて知ってもらう方式が広がっています。それも、どちらかというと直接的な企業名や商品名をタグ付けするのではなく、企業の「パーパス」や行動理念、実際のアクションを発信する手法が増えているのです。
それらがどのような効果を持つのでしょうか。デジタルネイティブ・SNSネイティブと呼ばれる世代の動向とともに紹介します。
図1 サントリーの「#deleteC」特別ラベル
(出所:「C.C.レモン deleteC ラベル」新発売」サントリー)
https://www.suntory.co.jp/softdrink/news/pr/article/SBF0915.html
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「#deleteC」の拡散力
「deleteC大作戦」とは、毎年2月4日の世界対がんデーに向けて開催されるイベントで、多くの企業が参加し、がん治療研究機関に対する寄付を募るというものです。「C」とは「cancer=がん」を指し、それを「delete」しようという活動趣旨のこの運動は、企業だけでなく消費者を巻き込むSNS上でのイベントにもなっています。その一例が、サントリーの「C.C.レモン」です。サントリーが2019年に販売した、キャンペーン用の「C.C.レモン」のラベルはこのようになっています(図1)。商品名から「C」を消した、という意味合いのラベルになっています。
そして、このラベルの商品を買い、写真をTwitterかInstagramに投稿すると1投稿あたり100円、また、参加企業公式アカウントがdeleteC大作戦について投稿しているものに「いいね」をつけると1件あたり10円が募金になるというしくみです*1。商品名、あるいは企業名に「C」を含む企業が積極参加しています。
このキャンペーンの特徴は、まずSNS上でのイベントであることです。各企業が自社の取り組みをアピールする道具として、SNSを積極利用しているのです。多くの企業が協力することでキャンペーン期間中には「バズ」が生まれます。それが雪だるま式に広がり、企業や商品の認知度、そして実際の売上アップを狙えるという新しい手法です。
デジタルネイティブの消費傾向・価値観
ここで、興味深い調査結果があります。電通デジタルが「デジタルネイティブ」の消費傾向を分析したものです。まず「熱中消費」の傾向が見られるとした上で、このような種類があると指摘しています(図2)。
図2 デジタルネイティブの「熱中消費」パターン
(出所:デジタルネイティブ世代は “好きを極める消費”へシフト」電通デジタル) p6
https://www.dentsudigital.co.jp/release/DD2020037_0928.pdf
様々なタイプに分類されているものの、「deleteC」のようなSNS上での運動は、多くの種類の消費傾向に当てはまりそうです。
「人がおすすめするものなら間違いない」
「他人も熱中の沼に巻き込みたい」
「消費=出費ではなくアイデンティティ」
「応援していることに意義がある」
・・・。
現代はよく「モノ消費よりコト消費」と言われますが、deleteCはその両方を備えた運動であるとも言えるでしょう。かつ、企業のブランディング戦略にも貢献します。商品名も社名もそう強調するわけでもなく、しかし認知度を向上させるのです。
「Z世代」というこれからの主流
さて、これからの消費を担う存在として注目されているのが「Z世代」です。1990年代後半方2010年代前半生まれの世代を指します。少子高齢化もあって、人数じたいはそう多いわけではありませんが、Z世代の特徴はSNSを自由に操り「拡散力」を持つという特徴があります。特にZ世代の女性を対象にした電通などの調査によると、「バズ消費」という傾向が目立つのだといいます(図3)。
図3 Z世代女性の「バズ消費」について
(出所:「『売り切れ前に買わなくちゃ!』Z世代女子を中心に巻き起こっている「バズ消費」とは?」電通報)
https://dentsu-ho.com/articles/7770
そして、その背景には「売り切れ恐怖マインド」があるのだといいます(図4)。
図4 Z世代女性の「売り切れ恐怖マインド」
(出所:「『売り切れ前に買わなくちゃ!』Z世代女子を中心に巻き起こっている「バズ消費」とは?」電通報)
https://dentsu-ho.com/articles/7770
SNS上でのイベントがあっという間に広がるのも納得できます。
ただ、注意したいのは、このような心理が「コンプレックス広告」や詐欺的なアフィリエイト広告を広げる温床になっているということでもあります。SNSにウソの経験談を投稿した画像を使ったり、「今だけ」という謳い文句、「毎回すぐに売り切れ」というだましの言葉を使ったりすることが大きな効果を持ってしまうのです。
また、キャッシュレス決済にも慣れた世代です。熟考せぬままその場で支払い手続きをしてしまう危険性は非常に高いと言えるでしょう。
「間接自慢」という振る舞い
消費の形について、「モノ消費」の時代は終わり、「コト消費」、さらに先に進んで「イミ消費」という言葉も見られるようになりました。博報堂出身マーケティングアナリストである原田曜平氏は、Z世代についてこのような側面も指摘しています。「間接自慢」という拡散方法です。
“「間接自慢」とは、直接的、ストレートに他人に自慢するのではなく、間接的、碗曲的に他人に自慢したしという要求や、間接的に自慢する行為のことを指します。
(中略)リアルでもSNS上でも、直接的で露骨な自慢をすると、嘘や陰口が広がりやすく、周りから煙たがられてしまうので、それを避けるために「間接自慢」という手法が生まれました。”
<引用:「Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?」p95 光文社新書/原田曜平/2020>
例えば、「出張に行った」という写真の中に、チケットの背景にさりげなくおしゃれな飲み物や自慢の財布を映り込ませてSNSに投稿する、といった具合です。ハッシュタグによるSNSでの企業ブランド拡散は、こうした傾向に馴染むものと考えられます。大声では叫ばないが、自分も活動に参加していることをさりげなくアピールしたい。そのようなとき、「さりげない写真」「さりげない投稿」をしたければ、さりげなくハッシュタグをつけた投稿をするというやり方はある意味で理にかなっています。
また、deleteCでは、直接投稿をしなくても「いいね」で応援するという形もあります。
Twitterの仕様の場合、自分がある投稿に「いいね」をしたことはフォロワーに伝わるようになっています。間接的な自己表現の最たるものでもあると言えるでしょう。このような、熱狂しつつもその表現方法には「さりげなさ」を求める。こうした心理をうまく掴むことが、今後のマーケティングには必要と言えます。
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